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腐り始めた「人権大国」フランスの魂

ロマの本国送還を進めるフランスで、今度はブルカ禁止法が成立。そこには欧州の暗部と重なるパターンが見える

2010年9月16日(木)16時51分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

 フランスのブルカ禁止法案を、上院が賛成246票、反対1票の大差で可決した。憲法会議で違憲と判断されない限り、来年初めにも施行される。建国理念の「自由、平等、博愛」は失われた。

 イスラム教徒の女性が顔や全身を覆うブルカの着用を禁止することで、フランスは中世の暗黒時代へ一歩、逆戻りしたことになる。それだけではない。異文化に対する不寛容は、フランスが自国文化に自信を失くしていることの表れだ。自信がないから異文化を攻撃し、さらに自分を傷つける。

 ブルカ禁止法が施行されても、実際に影響を受ける女性の数は2000人程度と推定されている。フランスの政治家たちの尋常でない怯えようがわかろうというものだ。わずか2000人の女性が歴史あるフランス文化を破壊できると本気で思っているなら、問題はブルカではない。パラノイアだ。フランス文化は吹けば飛ぶほど脆いと、思い込んでいるのだ。

 フランス政府が最近、東欧の移動型民族ロマなどの不法キャンプ100カ所以上を撤去し、1000人以上の不法滞在者を本国に送還しているやり口と考え合わせれば、そこには欧州の歴史の暗部と重なるパターンが見てとれる。

 少年だった私の父は、ウィーンでユダヤ人を示す黄色いダビデの星を服につけさせられた。少数民族に目印をつけたり、ブルカを禁じて自己表現の権利を否定することで社会の「純血」を守ろうとするのは、いずれも等しく唾棄すべき行為だ。

 文明社会で不寛容が許容されるのは、不寛容に対する不寛容だけでなくてはならない。ニコラ・サルコジ仏大統領とフランス国民が警戒する気持ちはわかる。フランスの魂にとんでもない脅威が迫っている。ただしその敵はブルカを着ていない。

Reprinted with permission from David J. Rothkopf's blog, 16/09/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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