最新記事

イエメン

子供と結婚する男たち

遊びも教育も奪われて嫁に出される少女たち。貧しさゆえの早婚の伝統がなくなる日は遠い

2010年5月17日(月)14時53分
ミラ・バズ

 真新しい白いドレスに輝く金のアクセサリー。ザイナブ・フセインは13年間の人生で最大の注目を浴びていた。

 まるで子供のおめかしごっこのようだが、身に着けているものは本物ばかり。「私はお嫁さん。結婚するの!」。ザイナブは得意げに友達に言ったものだ。

 数日後、ザイナブは30歳のいとこと結婚した。彼がザイナブの父親に払った「代金」は5000ドル。現在28歳になったザイナブは、当時を振り返ってこう言う。「とてもつらかった。今でも誰を責めていいのか分からない。でも両親のことはすごく恨んだ」

 国連が世界最貧国の1つとするイエメンでは、今も幅広い地域で早婚の伝統が残っている。イエメンの全国女性委員会によると、主として地方部の少女300万〜500万人が、13歳になるかならないで結婚している。女子の半分以上が18歳未満で結婚するという調査結果もある。

 もちろん早婚に反対する声はある。女子の結婚年齢を18歳以上とする法案が提出されたこともあるが、保守派の強力な反対によって阻まれてきた。

 夫の家に嫁入りしたザイナブには、重労働の日々が待っていた。毎日ヤギを追い、薪を拾い、畑を耕した。朝早く何時間も歩いて飲み水をくみに行くのも彼女の仕事だった。それを妊娠中も続けたため、3度の流産を経験した。

母親の感情が湧かない

 国連人口基金(UNFPA)によると、10〜14歳の女子が妊娠や出産で死亡する確率は、20代前半の女性より5倍も高い。肉体的な準備ができていないからだ。

 夫の家族と同居することになったザイナブは孤独だった。夫は2カ月後に出稼ぎ先のサウジアラビアに「帰国」。イエメンに戻ってくるのはまれだった。

「相手が年配の男性の場合、金銭が絡んでいることが多い」と言うのは、イエメン女性連盟のファウジア・アルムライシーだ。「相手が出稼ぎ労働者だと、(花嫁の)父親は、娘がましな生活ができると思ってしまう」

 15歳で初めての子を産んだとき、ザイナブは大きな怒りを覚えたという。夫の家族の前で娘をせっかんしたこともある。「母親だって気持ちがまったくなかったから」

 だが今は罪悪感に駆られている。「娘を殴るなんて考えられない。娘は何も悪いことをしていなかった。でも私は、ただ自分を気に掛けてくれる人、愛してくれる人を必要としていた」

 NGO(非政府組織)や政府機関は、早婚撲滅運動を展開している。イエメン女性連盟は09年に意識向上プロジェクトを立ち上げ、未成熟な少女が結婚や妊娠によって被る肉体的・心理的負担を訴え、教育こそ貧困のサイクルを断ち切るものだと説いてきた。

 こうした努力は徐々に実を結びつつある。世界銀行によれば、05年に34%前後だった15歳以上の女性の識字率は、女性連盟などのキャンペーン後の07年には40%を超えるまでに改善している。

わが子には違う人生を

 イエメンの男たちは、自分たちも早婚の伝統の犠牲者だという。女性連盟によれば、幼妻と結婚した男性の多くは不満を募らせ、70%がもっと自分と気の合う女性を新たに妻に迎えるという(イエメンには一夫多妻の伝統もある)。

 ザイナブは夫が病気になって介護が必要になったとき、同情半分、子供たちと一緒にいられなくなる心配半分で、夫の元にとどまった。「病気の彼を見捨てるわけにはいかなかった」と彼女は言う。でも「それは間違っていた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中貿易協議で大きな進展とベセント長官、12日に詳

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中