最新記事

地球温暖化

コペンハーゲン会議が残した3つの教訓

大した成果もないまま閉幕したCOP15から読み取れるのは「ミニ多国間主義」への転換と、オバマ外交の落とし穴──

2009年12月22日(火)18時55分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

何も決まらず 世界中の指導者がコペンハーゲンに集ったが、法的拘束力のない政治合意にこぎつけるのがやっとだった Reuters

 コペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)には、どんな成果があったのか。答えは「大した成果はなかった」だ。

 2年の準備期間を経たにもかかわらず、COP15は不協和音だらけで、事実上の暗礁に乗り上げていた。会議が完全な失敗に終わる可能性が現実味を帯びるなか、主要国は法的拘束力のない「合意」をなんとか取りまとめた。温室効果ガス削減は各国の自発的な努力にまかされ、2度以内という気温上昇の抑制目標値にも大した根拠はない。

 環境保護団体グリーンピースは、ツイッターで次のように指摘した。「計画に2年を費やし、交渉に2週間をかけたのに、最後の2時間で不完全な合意ができただけだった。これで信用できる温暖化政策の『チェンジ』といえるのか」

 バラク・オバマ米大統領が、予定を1日早め、ワシントンに異例の大雪が降る前に帰国したのも象徴的な出来事だった。私は環境問題の専門家ではないが、どうしても指摘しておきたいことが3つある。

 まず、私のブログを以前から読んでいる人ならわかるように、COP15の結末は驚くべきものではない。エコノミスト誌が1週間ほど前に指摘したように、「気候変動問題は世界がかつて経験したことのない難しい政治課題」なのだ。

 地球温暖化についての科学的な不確実性(温暖化の事実が証明されていないのではなく、どの対応策が最も効果的かわかっていない)があることに加えて、人為的な気候変動への対応は各国の足並みをそろえるのが難しい課題の典型例だ。

 温暖化の被害を受けたくないという思いはすべての国に共通しているが、どの国も温暖化防止のコストは他の誰かに払ってほしいと願っている。しかも、すべての国が平等に甚大な被害を被るわけではないし、実害がでるのは数十年先の話だ。

 各国の指導者は、子孫の生活を守るために現役世代にコスト負担を求める必要がある。不可能ではないが、政治家にとって魅力的な話ではない。

多国間主義から「ミニ多国間主義」へ

 しかも、温暖化を防止する最善策について、いまだにコンセンサスがない。国ごとの排出削減目標に応じて国内企業に排出枠を課す「キャップ・アンド・トレード方式」を好む国もあれば、石炭や石油に課税するシンプルな「炭素税」方式を主張する国もある。

 温室効果ガスの主要排出国の経済環境が大きく違う点も、問題の解決を難しくしている。温暖化の原因をつくった先進国が、今では中国やインドのような途上国に経済成長を鈍化させかねないコスト高な施策を求めている。中国やインドが嬉しくないのは言うまでもない。

 どんな合意も不便で割高で検証が困難という現実を前にすると、アメリカの医療保険制度改革が比較にならないほど簡単な問題に思えてくる。

 2つ目に指摘したいのは、コペンハーゲン会議の結果が、フォーリン・ポリシー誌のモイセ・ナイム編集長の主張する「ミニ多国間主義」の正しさを裏付けているという点だ。

 192カ国すべての合意が取り付けられないのなら(できないのは明らかだ)、経済大国(温室効果ガスの主要排出国であり、他国を支援するリソースをもった国々)だけを集めて、何らかの合意を模索すべきだというのがミニ多国間主義の考え方。したがって肯定的に解釈すれば、会議の最終局面でメンツを保った合意は、主要国を中心としたミニ多国間主義への転換の第一歩だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、8月は前年比+3.8% 予想と一致

ワールド

旧統一教会の韓鶴子総裁を聴取、前大統領巡る不正疑惑

ワールド

香港長官が政策演説、経済と生活の向上に注力 金取引

ワールド

習氏のAPEC出席を協議へ、訪中する韓国外相が明か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中