最新記事

米警察

アメリカは警官の性犯罪に大甘

警官の立場と「ノウハウ」を利用した表に出ない性犯罪が多発している

2014年7月18日(金)12時59分
ポーラ・メヒア

権力濫用 女性に対して威圧的に迫る警官が後を絶たない Joshua Lott-Reuters

 警察官による性的暴力の実態を、きちんと把握するのは不可能らしい。米ニュースサイト「トゥルースアウト」によれば、まともなデータを持つ機関はどこにもなく、報告が残っていても記述は短く、立件されなかった事例が目立つという。

 しかし、警官による性犯罪は現に次々と起きている。首都ワシントンで、元警官が自宅に未成年の少女を集めて売春させていた事件が発覚した。ウィスコンシン州では女性2人の殺害容疑で元警官が逮捕され、テキサス州では妻への暴行で現職警官が逮捕された。勤務中に少女らに性的暴行を加えた罪で35年の実刑を言い渡された警官もいる。

 民間の支援団体で性犯罪被害者の対応に当たっているジェニファー・マーシュによると、匿名OKの専用電話による通報はたくさんあるが、そのうちどれだけが容疑者の警官の逮捕に至っているかも、訴えが棄却される例がどれだけあるかも、正確には分からないという。

 取り調べでは被害者よりも警官の証言が信用されがちだし、警官は巧妙に相手を選んで犯行に及んでいる。マーシュによれば「彼らが狙うのはセックス産業で働く女性や、アルコールや薬物の影響下にある女性」で、いざとなると「そういう人の証言は信用できないと主張する」のだ。

 シンクタンクのケイトー研究所の非公式調査によると、警官が訴えられる民事訴訟で2番目に多いのが性的事件で、10年には全体の9・3%を占めていた。訴えられた警官618人のうち354人は強制わいせつ行為によるもので、その被害者の半数以上は未成年だったという。

 もともと性犯罪は立件しにくいし、司法省の推定では、性的暴行事件の6割は当局へ通報されることもない。実刑となる確率はわずか3%で、その中に警官が何人いるかは不明とされる。警官による性的暴力事件の多くは勤務中に起きているが、たいていは単独犯だ。逮捕されても尋問に当たるのは身内の警官。公正な捜査など期待するのが無理なのだろう。

[2014年7月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中