最新記事

健康

NY市長、矛盾だらけのホットドッグ偏愛

塩分や炭酸飲料を厳しく規制する一方、ホットドッグの早食い大会を絶賛するニューヨークのブルームバーグ市長に記者が辛口の提言

2012年9月3日(月)15時46分
ウィリアム・サレタン(ジャーナリスト)

愛は盲目 自らホットドッグ好きを公言するブルームバーグ Chip East-Reuters

ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ殿

 政治家は偽善者だとよくいわれますが、どうやらあなたもその1人のようですね。あなたは市内の飲食店に対し、トランス脂肪酸の使用を規制し、減塩を呼び掛け、メニューにはカロリー表示を義務付けてきました。

 5月末には、飲食店や映画館で出される炭酸・甘味飲料のサイズを16オンス(約470ミリリットル)以下に規制する計画を発表しました。しかし健康に有害だという理由でこうした規制を強化するほど、あなたの偽善者ぶりが際立ちます。

 何しろあなた自身、ピザやベーグルに塩をかける姿が目撃されています。毎日コーヒーを3〜4杯飲むことも有名です。

 6月1日の「ドーナツの日」には、そのイベントを支持する矛盾をNBCテレビのニュース番組で突っ込まれていましたね。するとあなたはこう答えました。「ドーナツ1個で健康が損なわれることはない。節度を保てばほとんどの食べ物は問題ない。ソフトドリンクの件も、節度を持ってもらうことが目的だ」

驚きの「ホットドッグ公約」

 節度、ですか。

 では、ホットドッグをめぐるあの饗宴(狂宴と言ったほうが正しいですね)はどうなのでしょう。毎年コニーアイランドで開かれる、独立記念日(7月4日)恒例の早食い大会「ネイサンズ・ホットドッグ・イーティング・コンテスト」のことです。

 02年にあなたが市長に就任して以来、10分の制限時間内に食されるホットドッグの最高記録は、50個から68個に増えました。あなたは毎年、大会前の体重計測イベントを主催し、出場者を褒めたたえ、テレビで何百万人もの人々が見守っていると誇らしげに言います。

 02年大会では、「ホットドッグの税金は極めて低く抑えたい。私自身が大好きだから」と、驚きの公約をしました。翌03年には、「ホットドッグを素早く大量に食するには科学と戦略が必要だ。皆さんは素晴らしいアスリートだ」と、出場者に最大級の賛辞を寄せました。

 あなたの「ホットドッグ崇拝」に困惑する者は少なくありません。CNNの金融エディターは、これは「暴食大会」であり、なぜあなたが「持ち上げる」のか理解できないと言いました。「ただでさえ専門家が、アメリカ人の肥満傾向に警告を発しているのに」と。

早食い選手の健康被害は無視?

 それでもあなたは早食い大会への称賛をやめませんでした。07年大会では「独立記念日はわれわれの自由を祝福する素晴らしい機会だ。権利の章典には明記されていないが、ホットドッグをできるだけたくさん食べる権利は起草者たちの念頭にあったに違いない」と言っています。

 08年頃には、かつての出場者の中に40キロ近く太った人や、胸に痛みを覚えるようになった人がいると報じられるようになりました。「体に脂肪分や塩分を詰め込むのが健康的とは思えない」と、ある元出場者はCNNで語っています。「でもステージに上がって自分の名前を呼ばれ、市長と一緒に写真を撮ってもらうと舞い上がってしまう」

 あなたは、娯楽イベントに目くじらを立てる必要はないと思っているのかもしれません。確かに脂肪と塩と白パンを口に詰め込むのは、サーカスの見せ物のようなものです。でも炭酸飲料は深刻な健康被害を及ぼすからサイズを規制する必要があると、あなたは言います。

 好きになさるといいでしょう。ただ、節度を説きつつ早食いの権利をたたえるのはいただけません。どちらか一方にしてください。今後のあなたの発言に注目しております。

© 2012, Slate

[2012年6月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中