最新記事

米大統領

新大統領オバマを待つ「100日」の壁

新政権の評価を決める最初の3カ月には、ありとあらゆる試行錯誤が必要だ。オバマの100日は成功するか失敗するか

2009年4月24日(金)11時31分
ジョナサン・オルター(本誌コラムニスト)

 歴代の新米大統領を悩ませてきたのが「就任後最初の100日間」で政権への評価を下す風習だ。バラク・オバマも例外ではない。「100」という数字の由来は諸説あるが、フランクリン・ルーズベルトが1933年に招集した特別議会が100日間続いたことから使われるようになったとされる。ジョン・F・ケネディは就任演説で「私の政策目標を達成するには1000日でも足りない」と語り、高まる期待を牽制した。

 法的な側面からみると、金融危機からの脱出をめざす09年はルーズベルトが世界恐慌と戦うために次々と法案を送り出した33年の再来となりそうだ。

 オバマの「景気回復策」は民主・共和両党の支持を受けて、「大統領の日(今年は2月16日)」までには可決される見込みだ。リベラル派が「景気刺激策の規模が小さい、減税が多い」と主張すればするほど、オバマは中道寄りとみられるようになるだろう。「大きな政府」は復活するだろうが、誰も異論を唱えることはないはずだ。それほど危機感が深刻だということだ。オバマの金融政策が成功するとはかぎらないが、ほかに経済を立て直す方法が見つからない。

 昨秋に可決された金融安定化法に基づく「不良資産救済プログラム(TARP)」と、オバマが提案する「アメリカ再生再投資計画(ARRP)」を合計すると、私たちは5カ月間でなんと1兆5000億ドルを支出しようとしている。TARPの内容を完全に理解できるのは金融業界のほんのひと握りだけだ。ARRPはエネルギー関連事業に拠出される巨額の助成金のこと。ホワイトハウスのトイレの位置さえもまだ把握していないようなオバマ新政権のスタッフたちが、数千億ドルの使い道を議論しているというわけだ。

 今年は、TARPやARRPが財政を食い尽くす年として記憶されるかもしれない。だが資金が必要なのは経営難に陥った銀行や自動車メーカー、教員の解雇や貧しい人の切り捨てを避けたい州政府だけではない。たとえばオバマが倍増すると公約した癌研究への助成、重要視すると約束した幼児教育。これらの分野が今回の「再生策」に盛り込まれなかった場合、1兆ドル規模の財政赤字をかかえることになった後で、将来的に助成金が回る可能性はあるのだろうか。

 とはいえ、再生可能エネルギーへの助成金の増額や、低所得者層の子供への公的健康保険の拡大(1月14日に法案が下院を通過)などの大改革が期待できる可能性もある。テレビ中継される会議の場などでオバマが「教育の最高責任者」の役を演じるという公約も果たされるだろう。単なるパフォーマンスにすぎないとの批判もあるだろうが、真のねらいは政策への支持を固めることだ。

 就任当初は経済再生計画の実施や地域紛争への対応に追われ、これらの政策が本格的に動きだすのは早くても夏にずれ込みそうだ。

 他方、待ったなしの課題もある。12月にデンマークのコペンハーゲンで開催される気候変動枠組み条約締約国会議で、「キャップ・アンド・トレード」式の排出権取引や炭素税などの具体的なエネルギー政策を提示できなければアメリカは恥をかくだろう。

大切なのはルーズベルト流の行動

 もっとも、滑り出しが好調でもずっと順調とはかぎらない。33年にルーズベルトが提出した金融業界の規制法案は議会に否決された。退役軍人の恩給を半分に削減したときには不評を買い、削減策の多くを撤回することになった。拒否権発動までチラつかせて反対した銀行預金保険制度の審議でも、多数派に押しきられている。

 それでも、ルーズベルトは最初の100日を見事に成功させた。ありとあらゆる政策を試した結果だった。部下たちには職務を果たすように求め、言い訳を認めなかった。さらにニューディール政策の一環として雇用創出のための「自然保護青年団」を発足させようとしたときは、挫折しそうな側近をこう励ました。「イエス・ウィ・キャン(われわれはできる)」

 オバマの100日が成功する可能性も高い。ルーズベルトの就任演説の中でいちばん大切な言葉を理解しているからだ。それは「アメリカに必要なのは行動だ。今こそ行動しよう」というもの。現在のアメリカもまさに「行動」を必要としている。

[2009年1月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中