最新記事
SDGs

1年間でイギリスの年間消費量の半分の水が「消える」...AIがもたらす深刻な水不足に備えよ

FIXING AI’S WATER DRAIN

2025年8月5日(火)13時59分
ムハンマド・ワキル・シャザド(英ノーサンブリア大学准教授)
データセンター

データセンターの精密機器に湿気はNGだ GORODENKOFF/SHUTTERSTOCK

<AIを動かすデータセンターを「冷却」するために蒸発し続ける大量の水。水不足に陥らないための画期的な冷却方法とは?>

データセンターは現代のデジタル社会を支える「見えないエンジン」だ。グーグル検索、クラウドに保存した写真、チャットGPTの回答──。あらゆる情報が、世界中に点在する巨大なデータセンターの高性能コンピューターで処理されている。

これらの施設は膨大な電力を、そして水を消費する。しかも家庭用水と違い、その水は再利用されない。


この循環しない「静かな水の損失」に、環境科学者らは懸念を示している。2023年発表のある論文(未査読)では、2027年時点で世界中のAIが1年間に消費する水の量が、イギリス全土の年間使用量の半分以上に達すると予測されている。

データセンターには通常、何千台ものサーバーが設置され、24時間体制で稼働している。これらの機器は莫大な熱を発生させるため、適切に冷却しなければオーバーヒートで故障してしまう。

2022年、イギリスが摂氏40度の記録的熱波に襲われた際には、ロンドンにあるグーグルとオラクルのデータセンターが一時的にダウンしてしまった。こうしたトラブルを防ぐため、データセンターは冷却用に大量の水を必要としている。

1メガワット(一般家庭1000世帯分の電力消費量に相当)級のデータセンターでは、年間最大2550万リットルの水を使う。ちなみに、世界中のデータセンターを合わせると約59ギガワットだ。

冷却方法として一般的なのが、チラーと呼ばれる巨大冷蔵庫のような装置だ。この冷却過程では大量の水が蒸発して失われ、再利用されない。この点が、下水処理を経て再利用される家庭用水とは根本的に異なる。

つまり、データセンターが使用する水は実質的にその地域の水収支から失われてしまう。干ばつや水不足が発生しやすい地域では深刻な問題だ。しかも、2022年以降に建設されたデータセンターの3分の2は水資源に乏しい地域にある。

アルミ箔で冷却革命

代替策として、「直接蒸発冷却」という方法もある。水を含ませたパッドにデータセンターから出た熱い空気を通すと、水が蒸発する。その際、気化熱によって周囲の熱が奪われて空気が冷やされ、その冷気を再びサーバールームに戻す仕組みだ。

ただし、この方法だと室内の湿度が上がり、サーバーのような精密機器を損傷する恐れがある。そのため湿度管理の追加設備が必要となる。

そこで筆者の研究チームは、湿った空気と乾いた空気をキッチン用アルミホイルのような薄いアルミ箔で分離する新たな冷却法を開発した。乾燥した熱い空気を湿った空気の近くに通すことで、アルミ箔を介して熱だけを伝え、精密機器の嫌う湿気を発生させずにサーバールームを冷却する。

英ノーサンブリア大学のデータセンターで行われた実証試験では、従来のチラーよりもエネルギー効率に優れ、水の消費量も少ないことが確認された。この施設の電力は全て太陽光発電に由来しており、コンプレッサーや化学的な冷媒も一切使用していない。

AIの利用が拡大し続けるなか、データセンターの需要は激増し、それに伴って水の消費量も格段に増えるはずだ。そうなる前に、デジタルインフラの設計・規制・エネルギー供給の在り方を世界中で見直す必要がある。

The Conversation


Muhammad Wakil Shahzad, Associate Professor and Head of Subject, Mechanical and Construction Engineering, Northumbria University, Newcastle

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


POINT(SDGs室長 森田優介)

newsweekjp20250624060949.png環境問題の解決にはDXが必要とされますが、それには環境負荷を伴うデータセンターの拡大が必要。そんな矛盾をはらむ課題があっただけに、このような技術革新への期待は大きいでしょう。


ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


日本
【イベント】国税庁が浅草で「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産登録1周年記念イベントを開催。インバウンド客も魅了し、試飲体験も盛況!
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新

ワールド

ゼレンスキー氏「ぜい弱な和平合意に署名せず」、新年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中