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オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マイクロプラスチックを血中から取り除くことは可能なのか?

Orlando Bloom tried to ‘clean’ his blood to get rid of microplastics – here’s what the science says

2025年8月1日(金)17時36分
ロサ・ブスケッツ(英キングストン大学 生命科学・薬学・化学部准教授)、ルイザ・C・カンポス(英ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン 環境工学准教授)
『ホビット 竜に奪われた王国』プレミアに登場したオーランド・ブルーム

『ホビット 竜に奪われた王国』プレミアに登場したオーランド・ブルーム Joe Seer-shutterstock

<毒素やプラスチックを取り除くため、血液を体外に取り出して「ろ過」したとのことだが──>

俳優オーランド・ブルーム(Orlando Bloom)が最近「血液を浄化する」処置を受けたと明かし、世間の注目を集めている。

【動画】腕から伸びるチューブ...「血液浄化」の様子をInstagramに投稿していたオーランド・ブルーム

ブルームが受けたのはアフェレーシス(apheresis)と呼ばれる治療法で、血液を体外に取り出して遠心分離やフィルター処理を施し、特定の成分を除去したうえで体内に戻すというものだ。目的は、マイクロプラスチックやその他の毒素を体外に排出することにあるという。

アフェレーシスは本来、自己免疫疾患や血液中の細胞・タンパク質の異常な増加に対応するために使われる医療行為だ。だが、マイクロプラスチックの「デトックス」としての効果は、科学的には裏付けがない。

それでもブルームは、日常的に体内にプラスチックが取り込まれていると感じ、それを排除したいと考えたという。

彼の見立てはおそらく間違っていない。マイクロプラスチック――5ミリ以下の微細なプラスチック片――は、空気、水、土壌、食品、さらには人体組織の中からも確認されている。しかし血液中からそれを取り除くとなると、話はそう単純ではない。

私たちは、腎不全患者が受ける透析治療の文脈でこの問題を研究してきた。透析は、血液中の老廃物や余分な水分を除去し、電解質のバランスや血圧を維持するための命綱だ。

ところが我々の研究では、透析が持つ医療的な意義の一方で、皮肉なリスクも明らかになった。治療に使用される機器のプラスチックが劣化し、そこからマイクロプラスチックが血流に入り込んでいた可能性があるのだ。

血液を浄化するはずの治療が、逆に汚染の原因となっていた――そんな矛盾が浮かび上がった。

アフェレーシスは透析と密接に関係している。どちらも血液を体外に取り出し、プラスチック製のチューブやフィルターを通して循環させた後、再び体内に戻すという工程を含む。そのため、どちらの処置でも、使用機器からマイクロプラスチックが血流に混入するリスクは共通している。

マイクロプラスチックとは何か?

砕けたストロー

砕けて細かくなったストロー FlyD-Unsplash

マイクロプラスチックとは、およそ5ミリ(米粒ほどの大きさ)から0.1ミクロン以下(赤血球より小さい)までの微細なプラスチック粒子を指す。

このうち一部は意図的に製造されたもので、かつて洗顔料などに含まれていたプラスチック製のマイクロビーズが代表例だ。一方で、大きなプラスチック製品が紫外線や摩擦、物理的な衝撃などにより劣化して細かく砕けたものもある。

マイクロプラスチックは私たちの生活環境の至るところに存在している。食べ物、空気、飲料水の中にも含まれており、プラスチック包装やポリエステルなどの合成繊維、人工芝などが拡散の一因とされる。

車のタイヤも摩耗する過程で微細なプラスチック粒子を放出し、プラスチック製容器で加熱・保存された食品にもマイクロプラスチックが溶け出す可能性がある。

ある推計によれば、成人1人あたり1日平均883個、重量にして0.5マイクログラム以上のマイクロプラスチックを摂取しているという。

現在のところ、マイクロプラスチックへの曝露と特定の疾患との因果関係を示す大規模な疫学研究は実施されておらず、今後の調査が求められている。

ただし、初期段階の研究では、マイクロプラスチックが炎症や心血管系の異常、DNA損傷と関係する可能性が示されており、これが発がんの一因となる可能性も指摘されている。

しかし、マイクロプラスチックが体内でどのように挙動するのか――蓄積するのか、組織とどう相互作用するのか、そして体がそれを排出できるのかどうか――については、いまだ明確な答えが出ていない。

「ろ過」は皮肉にも・・・

医療行為を受ける人

医療行為は多くのプラスチック製品に依存している Olga Kononenko-Unsplash

ブルームが考えたように「血液を浄化する」ことが、パスタの湯切りや飲料水のろ過のように簡単にできると信じたくなる気持ちはわかる。たしかに、ザルが水とパスタを分けるように、透析装置も血液を「ろ過」する。ただし、その仕組みははるかに複雑かつ繊細だ。

透析機器はチューブや膜、フィルターなど、多くのプラスチック部品に依存している。これらは長時間の圧力や繰り返しの使用にさらされるため、ステンレスのような耐久性はなく、時間とともに劣化し、マイクロプラスチックを血流中に放出する可能性がある。

これは、血液を「きれいにする」はずの装置が、逆に汚染源になるという皮肉な現象だ。

現在のところ、マイクロプラスチックを人間の血液から効果的に除去できるという科学的な証拠は存在しない。したがって、透析やその他の処置がそれを可能にするという主張には、懐疑的な目を向けるべきだ。

特に、そのろ過システム自体がプラスチックで作られていることを考えればなおさらである。

セレブが推奨するクレンズ法や「即効性のある解決策」に飛びつきたくなる気持ちは理解できるが、マイクロプラスチックが体に何をもたらし、それをどう排出すべきかについては、まだ研究の初期段階にある。

血液からプラスチックを取り除く方法に固執するよりも、曝露そのものを減らすほうが、長期的に見て有効な対策となるはずだ。

ブルームの行動は、多くの人が抱える漠然とした不安感を代弁している。「自分の体にも、きっとプラスチックが蓄積している」という感覚は、多くの人にとって共通のものだろう。

しかし、この問題に立ち向かうには、ウェルネスの流行に頼るだけでは不十分だ。必要なのは、科学的に裏付けられた知見、厳格な規制、そして日常的なプラスチック依存を減らすという根本的な意識の転換である。

The Conversation

Rosa Busquets, Associate Professor, School of Life Sciences, Pharmacy and Chemistry, Kingston University and Luiza C Campos, Associate Professor of Environmental Engineering, UCL

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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