分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べるサイズにしてしまおう...映画化が決まった実話
「息子さんが救急車を呼び、息子さんから連絡を受けた担任の先生が、警察が到着するまで息子さんと一緒にいてくださったという状況です。ご遺体は現在、隣の塩釜市にある、ここ塩釜署に安置されています。というのも、多賀城市には警察署がありませんので......。
それから、病院以外の場所でお亡くなりになりましたので、事件性の有無を捜査しなければならず、検案(※病院以外で発生した原因不明の死亡ケースで、監察医が死亡を確認し、死因や死亡時刻などを総合的に判断すること)が行われました。
死因は脳出血の疑いです。お薬手帳を確認しましたが、持病がいくつかおありだったようですね。糖尿、心臓、高血圧の薬を飲んでいらっしゃいました。
それで......遠方にお住まいで大変だとは思いますが、ご遺体を引き取りに塩釜署にお越し頂きたいのです。あの、メモはございますか?」
そう言うと山下さんは、次々と電話番号を私に伝えはじめた。兄が住んでいたアパートの大家さん、不動産管理会社、甥が通っていた小学校、そして甥の実母で、兄の前妻の加奈子ちゃん......。
死んでしまっているのに急いでも仕方がない
呆然としてしまった。関西から東北に移動するのに、いったいどれぐらいの時間がかかるというのだろう。塩釜と突然言われても、イメージがまったく湧いてこない。
え、塩釜って、たしか宮城県でしょ?
この人いま、釜石って言ってた?
そのうえ、週末には2日連続で大阪の書店でのトークイベントが控えていた。翌日早朝に自宅のある滋賀県から塩釜市に向かったとしても、2日後の金曜日には戻ってこなければならない。塩釜市で遺体を引き取り、火葬し、隣の多賀城市にあるアパートを引き払うなんて大仕事が、たった2日でできるはずもない。
混乱しながらも、必死に訴えた。
「実は今週末に大事な仕事がありまして、すぐには行けないのです」と言いながら、実の兄が死んだというのに仕事で行けないっていうのも変な話だよなと思った。しかし同時に、もう死んでしまっているのに今から急いでもどうにもならないと考えた。
塩釜署の山下さんは、「突然のお話ですから当然だとは思います。それで、いちばん早くてどれぐらいで塩釜までお越し頂けます?」と答えた。
頭のなかでスケジュールをざっと確認した。子どもたちの学習塾の予定、原稿の締め切り、家事、犬、そして何より書店でのイベントだ。
「いちばん早くて来週の火曜日、5日です」