【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る

THE AGE OF GENETIC SEQUENCING

2025年1月30日(木)19時41分
アレクシス・カイザー(ヘルスケア担当)

newsweekjp20250130050917-ac194568ae3bfe086e14c52e9b903dd542dfc26c.jpg

希少癌を克服したジャズピアニストのウルフ CHARLES LEVIN

ウルフと同じ病気の患者がメキニストを服用したことは過去に一度もなかった。だが服用後2日以内にウルフの症状は全て消え、10日後のPET(陽電子放射断層撮影)スキャンでは、ステージ4の腫瘍が80%減少していた。

ガウンダーは初めてウルフに会ったとき、余命2カ月と推定した。それから10年近くたった今も、ウルフの癌は再発していない。


ウルフのケースは、プレシジョン・メディシン(精密医療、個別化医療)の初期の例として、有力医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに掲載された。約10年後の今は、わずか数日で人間の全ゲノム配列を読み取れる。

この分野の進歩は驚異的だ。ある意味で進歩しすぎたと言えなくもない。

全ての遺伝情報を読み取る全ゲノム解析(WGS)は、特定の希少癌患者にとっても希望の星だ。最終的には万人のための個別化医療につながると、専門家は考えている。

しかし高額な費用と規制のせいで、利用は依然として限定的だ。一方で、この手法に疑問を持つ専門家もいる。現時点で解析可能なのは、WGSから得られるデータの2%程度だ。

癌治療のパラダイムシフト

「ダークゲノム」と呼ばれる残りの98%を調べることで、不治の病だった病気の治療法が見つかるかもしれないと、専門家は言う。だが、そのためには膨大なリソースが必要だ。

MSKの計算腫瘍学者エリー・パパエマヌイルによると、癌はゲノムの病気だ。ゲノム、つまり生物に含まれる全ての遺伝物質を調べることで、特定の癌の原因や治療法の手がかりを集めることができる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中