最新記事

健康

10年後の死亡率が最も低い睡眠時間は何時間か 日本人が知らない睡眠負債の恐怖

2019年2月25日(月)18時15分
西野精治 (スタンフォード大学医学部精神科教授 ) *東洋経済オンラインからの転載

これを続けたところ、3週間後に、睡眠時間が8.2時間になり、それ以上睡眠時間が減ることはなくなりました。そこで固定したのです。このことから、この被験者が生理的に必要とする睡眠時間は、8.2時間であろうと判定されました。

健康で睡眠に特に問題はないということで実験に参加した人にも、実は約40分(実験前平均7.5時間→実験後平均8.2時間)の眠りの借金がありました。本人の自覚がない中で借金はたまっていたのです。

さらに見逃せないのは、その約40分の睡眠不足状態から、自分にとって適正な睡眠時間に戻るためには、3週間もの時間を要したことです。たまった睡眠不足は容易に取り戻せない。だから負債になっていきやすいのです。そこに留意してほしいと、デメント教授は一般の方向けの講演でよくこの実験のことを語っていました。

6時間睡眠でも気づかぬうちに劣化!?

睡眠不足は、自分では気づかないうちにたまっていることが多いということを示すこんな実験結果もあります。

ペンシルベニア大学などの研究チームが行った実験では、「6時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力は2日徹夜した状態とほぼ同じレベルまで衰える」という結果も発表されています。ふた晩徹夜をすると、疲れや眠気で頭が働かないという感じをはっきり自覚できますね。ところが、この実験で6時間睡眠を2週間続けたグループは、自分の疲労やパフォーマンスの劣化を自覚できなかったのです。

自分でも気づかないうちに蓄積されていく、それが睡眠負債の怖さです。知らず知らずのうちに借金が雪だるま式に増え、気づいたときにはどうしようもないほどにまで膨らんでしまう。そうなると精神的にも追いつめられ、身も心も破綻しかねません。

「自分は毎日6時間も寝ているから大丈夫」

こんなふうに思い込んでいるあなた、本当に大丈夫でしょうか。生理的に身体が必要とする睡眠時間は人によってそれぞれですから、一概に6時間が少なすぎるとはいいきれませんが、ミスや事故、取り返しのつかない失敗は、危ういという自覚症状がないときにこそ起こりやすいのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中