最新記事
箱根駅伝

青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡...池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』を超える実話

2025年1月1日(水)20時44分
酒井 政人(スポーツライター)*PRESIDENT Onlineからの転載

元「公務員ランナー」の川内優輝も選抜で6区を走った

選抜チームを率いた原監督は、その後、青学大を王者に導く。原監督のキャリアの中でもこの年の成功体験が大きかったことは間違いない。

『俺たちの箱根駅伝』は2年連続で本戦出場を逃した古豪・明誠学院大が “主役” になっている。10月の予選会を突破できなかったが、主将・隼人が関東学生連合のメンバーに選ばれて、仲間たちと本戦での “逆襲” を目論むことになる。選手の一人ひとりにドラマがある。

筆者が取材してきたなかで一番印象に残っているのが、大学卒業後、「公務員ランナー」として有名になる川内優輝(学習院大)だ。2年時と4年時に関東学連選抜で箱根駅伝に出場している。

newsweekjp20241225100728-7ec7b4ca5103c083edea4c68ec54956a452967d1.jpg

ストックホルムマラソン2018(写真=Frankie Fouganthin/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

川内は高校時代(埼玉県立春日部東高校)、故障に悩まされ、思うような活躍ができなかった。一方、同学年のチームメイトには1500mで全日中(全日本中学校陸上競技選手権大会)とインターハイを制した高橋和也(早稲田大学に進学し、箱根駅伝に出場)というスピードランナーがいた。高校時代に経験した “大きな挫折” が大学時代の巨大なエネルギーになった。

「スピードでは高橋と勝負できないと思いましたが、山の合宿で高橋にはあまり負けなかったんです。当時から長い距離のほうが得意でしたね。特に山下りの練習では周囲がついてこられなかったので、高校2年生の頃は箱根駅伝の強豪校に行って、箱根の山下りの6区を走るという気持ちでした。でも、(高校時代に)一生懸命やっても報われないという状況に直面して、大学では楽しく陸上をやろうという気持ちに変わったんです」

川内は箱根駅伝に一度も出場したことがない学習院大に進学した。津田誠一監督は「頑張らない」という指導法だったが、これがかえって川内にフィットして急成長。あまり走り込まずに週に2回のポイント練習だけで、自己ベストを連発させたのだ。

そして大学2年時と同4年時に関東学連選抜のメンバーに選ばれる。第83回大会(2007年)は6区で区間6位と好走。さらには、第85回(2009年)は同じ6区で区間3位と存在感を発揮した。

川内が勢いをつけた関東学連選抜は10区佐野弘明(麗澤大)が順位を3つ押し上げて、総合9位でゴールに飛び込んでいる。予選会での「増枠」を勝ち取り、選手たちは喜びをわかちあった。

なお6区は高校時代のチームメイトだった高橋が1年時(区間16位)に走った区間。川内のなかでも大学で “高橋超え” を果たしたかったという気持ちがあったはずだ。

川内は大学卒業後、埼玉県庁に入庁。「公務員ランナー」として多くのマラソン大会に出場し、好記録を連発するなど異次元の活躍を見せた。現在はプロランナーとして活動しており、駅伝の印象は薄いかもしれないが、川内は選抜チームに感謝の気持ちを抱いている。

公務員時代にはこんなことを話していた。

「箱根駅伝を走ったことも大きな経験ですし、チームで知り合った仲間がライバルとなり、いまもいい刺激になっています。可能性をつぶさないためにも選抜チーム(という制度)を続けてほしいですね。いまの自分があるのも学習院大と学連選抜のおかげですから」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中