最新記事
演劇

「アートのライセンスビジネスが日本の生きる道」──平田オリザが語る「こまばアゴラ後」の活動

2024年6月28日(金)19時00分
柾木博行(本誌記者)

アートのライセンスビジネス

城崎国際アートセンター(KIAC)

平田と青年団の豊岡移転のきっかけとなった城崎国際アートセンター(KIAC)は豊岡市が運営している。撮影:西山円茄

──豊岡は中貝宗治前市長が平田さんを招聘して演劇を中心とした街作りを推進したわけですが、そのきっかけとなったKIACが開館してちょうど10年経ちました。

オープンして10年で、毎年20数カ国から100件近い利用申し込みがあって、その中から10数団体を選んでいます。日本の劇場は滞在制作機能をもっていないので、例えば神奈川芸術劇場や東京文化会館などが制作する作品を、実はKIACに滞在して作っているんですよ。それは予想していたんです、そういうニーズはあるだろうと。

ただ、1つだけ予想してなかったのが、東南アジアのアーティストが自分の国で獲得した助成金で来られるようになったこと。それは、20年前にはない状況です。以前は日本の国際交流基金が呼ぶ一方だったのが、東南アジアの経済発展で、タイとか、特にマレーシア、シンガポールなどは文化予算が結構あるので、自分で国内の助成金を取って日本に来られる。そのときにKIACの滞在制作アーティストに選ばれたというお墨付きが効くんですね。私たちでいうと、アヴィニョン演劇祭*から正式招待されたみたいな感じです。

でもこれって、今後日本の生きる道なんです、まだブランド力はあるから。日本はこれからこういう、ライセンス型の商売で食っていくしかないわけです。アメリカだってそうじゃないですか。iPhoneという商品そのものは作ってなくて、ライセンスで商売しているわけでしょ。アートもちょっと似たところがあるので、これからは日本に来てもらって作ってもらうっていうことですよね。

*南仏のアヴィニョンで毎年7月に3週間にわたって行われる国際演劇祭。延べ10万人の入場者数を誇り、1000以上の自主参加団体の作品が上演され、質量ともに世界でもっとも重要な演劇祭とされる。

──演劇と街の関係でいえば、2020年から始めた豊岡演劇祭があります。フリンジ*をメインにしたというのは、地方都市で国際美術展がもてはやされていることへの、カウンターみたいなところもあるのかなと。

いや、カウンターってほどではないです。演劇祭も今ヨーロッパでも多様になっていて、クンステン・フェスティバル・デザール**みたいなコンセプチャルで尖ったものでクオリティを保つものもあるんですけど、僕が親しんできたのはアヴィニョン演劇祭のような見本市型です。

それで、アゴラもそうですけど、ちょっと玉石混交のほうがいいと個人的にも思っていて、芸術監督とかプログラムディレクターが鋭くプログラムを決めないほうが僕は好きなんですね。「なんでこんなの選んだんですか?」くらいのものがあっていいんですよ、アートだから。それはなかなか最初理解されないんですけど。もう豊岡演劇祭のスタッフたちも、コンセプトとかあまり言わなくなってきたので、いい感じになってきたかな。若い人のほうがね、コンセプト、コンセプトっていうんです。「平田オリザにコンセプトなんかねぇよ」っていつも言ってるんですよ。いいんだよ、いろんなお客さんが来ればって(笑)。

*演劇祭の公式招待作品ではなく、劇団が自ら参加申し込みして上演される作品。
**ベルギーのブリュッセルで毎年5月に開催される演劇祭。若手アーティストを起用しプログラムの約半分が世界初演など、各国の演劇関係者が注目している先端的な演劇祭。


newsweekjp_20240630095704.png平田オリザ(ひらたおりざ) 1962年東京生まれ。劇作家・演出家・青年団主宰。芸術文化観光専門職大学学長。江原河畔劇場 芸術総監督。豊岡演劇祭フェスティバル・ディレクター。国際基督教大学教養学部卒業。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞、1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中