最新記事

映画

「不快だけど目が離せない」──サイレント映画業界を描く『バビロン』がちょっと残念な理由

An Elephant of a Movie

2023年2月8日(水)19時59分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『バビロン』

大胆で奔放なネリーは一躍有名になるが PARAMOUNT PICTURESーSLATE

<初期の映画業界を手放しで大絶賛する映画が多い中、その風潮にまったく迎合しない『バビロン』。壮大な物語だが、人物描写に難が...>

大量のふんを噴き出すゾウ、肥満した大物俳優との放尿プレーに呼ばれた若手女優──。

黄金期のハリウッドを描くデイミアン・チャゼル監督の新作映画『バビロン』の幕開けは、排泄物でいっぱいだ。これこそ、上映時間3時間を超える壮大な本作の「主題」でもある。初期の映画界を称賛ムードで回顧する多くの作品と違い、『バビロン』はお上品でも迎合的でもない。

チャゼルの狙いは、米開拓時代の面影を残すエネルギーと、映画という新しいメディアが20世紀にもたらした社会変革を呼び起こすことだ。多くの面で、この試みは成功している。おかげで、物語の一貫性や深みのある人物描写が犠牲になっているとしても。

本作はいわば、排便中のゾウのような映画だ。巨大で、しばしば不快感を誘うが、目を背けることは難しい。

物語の舞台は、サイレント映画がトーキーに移行し始める1920年代。メキシコ出身の労働者、マニー・トレス(ディエゴ・カルバ)はハリウッドの邸宅で開かれるパーティーに、ゾウを連れて行く仕事を引き受ける。

これがきっかけで、サイレント映画の大スターであるジャック(ブラッド・ピット)の助手として、マニーは夢見ていた映画業界に足を踏み入れる。

ヒロインの描写に「?」

撮影現場でのトラブルを創意工夫で解決するマニーは、やがてプロデューサーの座を手にする。彼が憧れ続けているのが、新人女優のネリー・ラロイ(マーゴット・ロビー)だ。

ざっと描かれる過去によれば、貧困とトラウマからはい上がったネリーは、往年の女優クララ・ボウを思わせる奔放なセックスシンボルとして人気をつかむ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中