最新記事

eスポーツ

「東大卒なのに」と言われた日本人ゲーマー、ときど。「東大卒だからこそ」世界で輝く

2021年8月11日(水)17時15分
朴順梨(ライター)
プロゲーマーのときど

JOE BRADY/RED BULL CONTENT POOL

<北米で「格闘ゲーム5人の神」の1人として知られ、56万ドルを稼ぐ。だが世界基準に達するまでには、スランプと苦闘があった>

2021081017issue_cover200.jpg
※8月10日/17日号(8月3日発売)は「世界が尊敬する日本人100」特集。猪子寿之、吾峠呼世晴、東信、岩崎明子、ヒカル・ナカムラ、菊野昌宏、阿古智子、小澤マリア、CHAI、市川海老蔵......。免疫学者からユーチューバーまで、コロナ禍に負けず輝きを放つ日本の天才・異才・奇才100人を取り上げています。

スペックは一切不問、勝つことが是とされるeスポーツの世界で、ときど(本名・谷口一)は異色のゲーマーとして知られている。

名門の麻布中学・高校(東京)から東京大学に進学したことで、時に「東大卒なのにプロのゲーマー」などと、どこかもったいないというニュアンスを込めて呼ばれるからだ。

『スーパーマリオブラザーズ』が発売された1985年に生まれたときどは、9歳の時にいとことプレーしたことで、格闘ゲームにハマった。中学生になると地元以外のゲーセンにも通い詰め、大人たちに勝負を挑むようになる。

と、ここまではそう珍しい話ではない。

ときどが誰とも違うのは、2010年のプロデビュー以来、リスクを排除し負けないようにするために編み出した戦い方(「ときど式」と呼ばれた)の一切を、2013年に捨てたことにある。

「格闘ゲームをなめていた」

ときどは当時を、そう振り返る。勝てなくなっていった彼は、勝ちにこだわってきた自分をあえて全否定した。

負けから学ぶ――。そうしていくうちに、敵だと思っていた他のゲーマーたちは、かけがえのないライバルだと気付いた。

同時に彼らは、理想の戦い方や自分のテーマを追求し、あえてポテンシャルが低いキャラで挑むこともあると知った。血の通ったプレーこそがプロの仕事だと悟ったことで、ゲームと正面から向き合えるようになった。

「格闘ゲームの神」の1人

「豪鬼(格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズのキャラ)で一生できます」

そう言えるようになった彼は、2017年に世界最大の格闘ゲーム大会「EVO」で優勝を勝ち取り、カプコンプロツアーの「カナダカップ」では2018年、2019年と連続優勝するなど、国際大会で好成績をたたき出した。

キャラを愛し、ライバルは共に研鑽する仲間だと認めることで、再生と勝利への道が開けたのだ。

ときどは北米では「格闘ゲーム5人の神」の1人として知られ、日本人ゲーマーとして2番目に多い56万ドル以上の生涯賞金を獲得している。その海外での知名度を裏付けるように、昨年には国際eスポーツ団体のプレーヤーで構成される委員会で唯一の日本人メンバーに抜擢された。

対戦時にあまりのこわもてになることから、海外で「マーダーフェイス」とも呼ばれるときど。しかし普段の彼は柔らかな表情でよく話し、よく動く。

定期的なゲーム配信を続ける傍ら2日に1度の筋トレは欠かさないし、空手教室にも通っている。心・技・体のバランスが取れた姿に、憧れる次世代も少なくない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イラン核問題巡りトランプ氏と協議へ 

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中