最新記事

音楽

目標はグラミー受賞、あなたはCHAIを知っているか【世界が尊敬する日本人】

2021年8月6日(金)11時25分
澤田知洋(本誌記者)
CHAI

CHAIは米名門レーベルのサブポップに所属し、世界市場で勝負する ©Yoshio Nakaiso

<「NEO KAWAII」を掲げ国内外で人気上昇中のバンド。「鎖国した日本の音楽市場を開国する象徴に」との予言も>

2021081017issue_cover200.jpg
※8月10日/17日号(8月3日発売)は「世界が尊敬する日本人100」特集。市川海老蔵、猪子寿之、吾峠呼世晴、東信、岩崎明子、ヒカル・ナカムラ、菊野昌宏、阿古智子、小澤マリア......。免疫学者からユーチューバーまで、コロナ禍に負けず輝きを放つ日本の天才・異才・奇才100人を取り上げています。

今年4月、ニューヨークのタイムズスクエアに日本人女性4人の顔が大映しになった。音楽配信大手スポティファイの広告として登場した、ロックバンドCHAI(チャイ)の面々だ。

メンバーは双子のマナ(ボーカル、キーボード)とカナ(ボーカル、ギター)、ユウキ(ベース)、ユナ(ドラム)。名古屋で結成し2017年にデビューして以来、CHAIは国内外で破竹の勢いで躍進している。

パンクやヒップホップ、エレクトロを織り交ぜた雑食的な音楽性と、アメリカのバンド、ディーヴォに触発されたというおそろいの衣装。あるがままの容姿が美しいことを認め、かわいさの拡張を目指す「セルフ・ラブ」を唱える日本語・英語交じりの歌詞。ときには確かな演奏力に定評のある楽器を手放し、4人でダンスを踊る刺激的なパフォーマンス。

強烈かつ普遍的な世界観を武器に、ステップアップを重ねてきた。

2017年に出演したアメリカの音楽・映画・ITの祭典SXSW (サウス・バイ・サウスウェスト)を皮切りに、大型ロックフェスへの出演を含めて欧米やアジアでのツアーを何度もこなしてきた。

海外のライブで観客たちがバンドコンセプトの「NEO KAWAII」を熱く吠えるのを見ると「最高にゾクゾクする」(ユウキ)と、メンバーたちも自分たちの音楽だけでなくメッセージが伝わっている手応えを語る。

グラミー賞のその先

ニューヨーク・タイムズなど欧米の主要メディアやミュージシャンも彼女たちを高く評価する。ライブを見たディーヴォのメンバー、ジェラルド・キャセールからは「衝撃的過ぎて、良い意味で理解できない」と手放しで絶賛されたという。

昨年からは歴史ある米レーベル、サブポップに所属。「グラミー賞を受賞する」という結成以来の目標が現実味を帯びてきた。

「やるからにはトップがいい」と、マナは当初から海外を見据えてきた理由を語る。「むしろ世界と日本を分ける理由が分からない」とユウキも口を添える。

デビュー前の新宿の小さなライブハウスでさえそのパフォーマンスは抜きん出ており、「無敵のスペシャル感があった」とCHAIの活動を学生時代から手伝ってきたマネージャーの小山和歌子が言うように、不思議な推進力のあるバンドだ。

「バンドという既存の概念にこだわらない」。その信条はコロナ禍で制作した最新アルバム『WINK』にも表れた。

スタジオで集まって演奏するこれまでの制作方法を転換。各自が録音した素材をオンラインでやりとりし、海外のミュージシャンとも共作。バンドサウンドの枠をはみ出す開放的かつ深みのある作品に仕上がった。

普遍的な魅力を持つCHAIは「鎖国した日本の音楽市場を開国する象徴になり得る」とプロデューサーの石川大は予言する。グラミー賞はセルフ・ラブを広める使命のあくまで通過点、と語る彼女たちが日本と世界をつなぎ直す日は近いかもしれない。

CHAI
CHAI
●ロックバンド

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

バイデン大統領次男の弁護団、新たな裁判求める申し立

ワールド

仏ベルギー、陸上防衛分野の協力強化で覚書締結   

ワールド

中国がEU豚肉輸入制限も、南米諸国や米ロにシェア拡

ワールド

仏下院選挙戦が正式に始動、極右優勢でマクロン氏の与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 6

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 7

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 10

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中