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「一番見るのはヒカキン」と話す盲学校の生徒たち YouTubeやゲームが大好きな彼らはどうやって「見る」のか

寺山修司が驚嘆したのと同じように、生徒たちがわれわれと異なる感覚器を使って世界を認識しているのであれば、感性的にもわれわれと違っており、そのことに新鮮な驚きを覚えるのではないかと期待していた。

しかし、それは誤った期待だった。

彼らの情報空間は健常者と大きく変わらない

取材を通じて思い知らされたのは、「われわれが『感性的な表現の豊かさ』と勝手に思っていたものは、実はただの情報格差に過ぎなかった」という事実である。

40年前、視覚障害者の子どもたちは、健常者との情報格差を彼ら独自の表現で補っていた。それをわれわれは「感性の違い、豊かさ」と思い込んでいた。

ところが2010年代に入り、スマホや点字端末のような新しいデジタルツールを用いて、テキストを音声や点字に自在に変換できるようになったことで、視覚障害者が取得できる情報量は、従来の制限を越えて飛躍的に広がった。

そうやって豊かな情報を得られるようになったとたん、彼らの中の情報空間はわれわれと大きくは変わらないものになった。

われわれはこの取材で改めて、技術が情報格差をどのように埋めようとしているのか、それにより人間の感性にどのような変化が生じているのかを、まざまざと知ることになった。

情報過多だからといって単純化できない

冒頭で触れたように、現代社会では「情報が視覚ばかりに偏るようになっている」「SNSで情報過多になっている」とされ、識者がそれを問題視している。しかし情報増加が意味すること、それにより社会にどんな変化が起きつつあるかについては、単純化された議論で語り尽くすことはできない。

身体障害者に対して、「機能が制限されているがゆえに生まれる感情の豊かさ」というような、勝手なポジティブなイメージや幻想を抱くのも、健常者の側の傲慢なのだ。

われわれはしょせん、自分が受け取っている情報に基づいて構築された情報環境の虜である。その点では健常者も視覚障害者も変わりはなく、違いがあるとすれば、それは情報の「量」だけなのだ。

情報こそが私たちの内的世界を作っている。今回の盲学校への取材は、その事実をありありと教えられた出来事だった。

最後に、本稿の執筆にあたっては、東京都立文京盲学校の生徒、教職員の方々に伺ったインタビューから多くの示唆を得た。関係者に厚く御礼申し上げたい。

Screenless Media Lab.

音声メディアの可能性を探求し、その成果を広く社会に還元することを目的として2019年3月に設立。情報の伝達を単に「知らせる」こととは捉えず、情報の受け手が「自ら考え、行動する」契機になることが重要であると考え、データに基づく情報環境の分析と発信を行っている。所長は政治社会学者の堀内進之介。なお、連載「アフター・プラットフォーム」は、リサーチフェローの塚越健司、テクニカルフェローの吉岡直樹の2人を中心に執筆している。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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