『ルック・オブ・サイレンス』が迫る虐殺のメカニズム
2015年7月9日(木)19時02分
口を閉ざして アディの母は50年近く、息子の死を語らず生きてきた © Final Cut for Real Aps, Anonymous, Piraya Film AS, and Making Movies Oy 2014.
人間の残虐性と権威者の命令の関係に着目したこの研究は、『ルック・オブ・サイレンス』の加害者にも通じる。だが現実には、人を虐殺に走らせる要因はあまりに複雑で、誰もその「闇」の正体をつかめていない。
前作同様、『ルック・オブ・サイレンス』はインドネシア社会を大きく揺さぶった。現地製作スタッフは実名を明かすと危険なため、エンドロールには「匿名」の文字がずらりと並ぶ。
だが初めは極秘上映するしかなかった前作と違い、今回は政府の後援を受けて国内で3500回以上上映。若者の間には歴史的タブーと向き合おうとする機運が高まり、政治家やメディアも和解の必要性を語り始めた。
「公開前は、なぜ今さら振り返る必要があるのかと、若者は考えるのではないかと思った」とオッペンハイマーは言う。「でも観客の反応から学んだのは、そうしないと人は前進できないということ。きちんと片を付けない限り、過去は必ず追い掛けてくる」
映画の中盤、アディの兄を殺した実行犯が嬉々として当時の様子を語る場面がある。その映像を黙って見詰めるアディ。悲痛な表情を浮かべ、でも決して目をそらさない。そこにしか出口はない──彼の沈黙は、そんな覚悟の表明にも思えた。
[2015年7月14日号掲載]
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