最新記事

語学

日本人が知らない「品格の英語」──英語は3語で伝わりません

MUCH TOO SIMPLE

2019年4月2日(火)16時25分
井口景子(東京)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン)

イラスト内のセリフ(*1)(*2)の解説は本文の最後に記載 ILLUSTRATION BY TAKUYA NANGO FOR NEWSWEEK JAPAN

<日本で人気の簡易版英語は、世界の現場で役立たず。「品格のある大人の英語」が不可欠な時代がやって来た。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは?>

20190409cover_200b.jpg

※4月9日号(4月2日発売)は「日本人が知らない 品格の英語」特集。グロービッシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは? ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)「日本人がよく使うお粗末な表現」、マーク・ピーターセン(ロングセラー『日本人の英語』著者、明治大学名誉教授)「日本人の英語が上手くならない理由」も収録。

◇ ◇ ◇

必要な単語は1500語のみ、複雑な時制や受動態は避け、短くシンプルな文で押し通す、比喩的表現や慣用句はご法度――そんなルールを掲げ、21世紀の国際コミュニケーションの新基準と期待を集めた新種の英語があった。IBM出身のフランス人実業家ジャンポール・ネリエールが提唱した「グロービッシュ」だ。

グローバルとイングリッシュを掛け合わせた造語であるこの簡易版英語は、グローバルビジネスの最前線で苦労する非ネイティブ話者の救世主ともてはやされ、2010年頃に世界的なブームを巻き起こした。

「通じればOK」のグロービッシュが国際ビジネスの共通語になれば、難解な構文やネイティブ流の発音を必死で学ぶ必要はなくなり、英語の壁は消え去るはず──。

だが、そんな未来は訪れなかった。「それ以前のあらゆる簡易版英語の試みと同じくグロービッシュは機能しなかった」と、イギリスの著名な言語学者デービッド・クリスタルは言う。単純な語彙や文法で十分という考え方は「日常会話で使われる表現を過小評価している。ビジネスコミュニケーションに至っては話にならない」。

残念なことに、消え去るはずだった英語の壁はこの10年でむしろ一段と高くなった。新興国も巻き込んだ経済のグローバル化が加速し、共通語としての英語のニーズと、求められる英語力の水準は高まる一方だ。

世界最大級の留学・語学教育企業イー・エフ・エデュケーション・ファーストが毎年行っている英語力比較調査では、世界全体の英語力が上昇傾向にあることが明確に示されている。

2018年には非英語圏の88カ国・地域のうち、英語力が5段階のうち一番上の「非常に高い」とされた国が過去最高の12カ国に(日本は下から2番目の「低い」)。業種間の英語力の差も縮小しており、あらゆる業種で英語ニーズが高まっていることが分かる。

「通じればOK」は高リスク

各国の英語教育業界は、こうした流れに後れを取るまいとスキルアップに励むビジネスパーソンで大盛況だ。ただし彼らのゴールは、格調高いネイティブ英語を完璧に操ることではない。

今や世界の英語話者のうちネイティブはわずか2割ほど。国際ビジネスの現場でも大多数はアジアや欧州、中南米などで生まれ育った非ネイティブだ。そこでの共通語はグロービッシュのようなブロークンな英語と比べればはるかに高度で洗練されているが、一方でネイティブ英語そのものでもない。

発音に多少の癖があっても、相手への敬意や社会常識がにじみ出る、品格のある英語。完璧な言い回しばかりではないが、その道のプロフェッショナルとして顧客の信頼を勝ち取り、交渉をまとめられる英語。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中