最新記事
経営

転職者の「情報持ち出し」をどう防ぐ? 中小企業ならではの情報漏洩リスクは?...弁護士が解説

2024年2月27日(火)08時10分
堀田陽平 ※経営ノウハウの泉より転載

■1. 就業規則、労働契約、誓約書などによる対応

従業員との関係で、基本的な対応となるのは、就業規則、労働契約、入社・退社時の誓約書で"秘密保持義務"を課しておくことです。

次の2で述べる不正競争防止法上の「営業秘密」は、法律に定義のある概念であるため、一定の規制力をもっています。

他方で、就業規則などで課す「秘密保持義務」の対象となる情報の範囲は、就業規則などで定めることができますので、不正競争防止法上の「営業秘密」ではない場合であっても、保護の対象とできます。

特に注意が必要であるのは、退職後の秘密保持義務については、就業規則などで明記しておいたり、誓約書をもって義務付けておかなければ、これを課すことができないという点です。この点は、在職中であればこれらの明文がない場合でも(内容は不明確になるものの)当然に秘密保持義務を負うことになるとされているのと異なります。

就業規則などで定められた秘密保持義務違反に対しては、情報利用の差止めや、損害賠償請求がありうるほか、仮に退職金を支給していない段階であれば、退職金の減額、不支給といった対応が可能です。

■2. 不正競争防止法の「営業秘密」としての保護

上記のとおり、退職後の情報漏洩については、就業規則などや誓約書をもって退職後の秘密保持義務を明確に定めておく必要があります。

そのため、就業規則などに退職後の秘密保持義務が課されていない場合や、誓約書を提出してくれないような場合には、不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護を検討します。

不正競争防止法上では、「営業秘密」を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」とされています。

【参考】不正競争防止法第2条第6項/e-gov法令検索

この定義上、ある情報が「営業秘密」として保護されるためには、以下の3要件を満たす必要があるとされています。

①秘密管理性
②有用性
③非公知性

①の秘密管理性との関係では、たとえば当該情報を誰でも見ることができない場所やフォルダに保存し、パスワードを設定していることや、書類に「対外秘」などと明記しておくことが必要とされています。

(参考記事)情報セキュリティ対策を怠った末路は悲惨...!? 中小企業で行うべき対策とは

■3. 商標権、特許権による保護

企業に存在している情報のうち、商標権や特許権などの対象になるものについては、費用対効果も見極めつつ、これらの知的財産法による保護を受けられるようにしておきましょう。

もっとも、知的財産法ではいわゆる「ノウハウ」は保護の対象にならないと考えられているため、ノウハウについては、①就業規則、労働契約、誓約書などによる対応か、②不正競争防止法の「営業秘密」としての保護が基本になります。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中