最新記事

オフィス

急速に進むリアルオフィスへの回帰...企業に求められる「働く場」改革とは

2021年10月29日(金)11時00分
西山亨

こうした課題に加え、将来的な課題として金沢大学理工研究域フロンティア工学系でエアロゾル(気体と微粒子の混合物)について研究している瀬戸章文教授は、次のように語る。「人間は微細な表情の変化から相手の心を読み取ろうとするので、コミュニケーションという観点から考えると、マスクを外すことができるような空気清浄の技術開発が求められる」

鍵を握るのは、人の周囲を局所的に浄化する技術

では、オフィスでのコミュニケーションを円滑に行うためには、どのようなことが必要なのか。瀬戸教授によれば主に3つの方向性があるという。1つめは空気中にエアロゾルそのものが出ないようにすること。

つまりはマスクやフェイスガード、パーティションなどを指しており、すでに多くの会社で実践済みだが、これだけではエアロゾル拡散の低減効果には限界がある。またパーティションなどが、エアロゾル濃度の高い空気を「その場にとどまらせることになる」マイナス面もあると、瀬戸教授は言う。

2つめは、空間全体に浮遊するエアロゾルの濃度を低下させるという方法。換気扇や空気清浄機を使ったもので、「ビル管理法に基づいて空気環境の調整に関する基準が満たされているオフィスビルなら、厚生労働省が推奨する基準はクリアしているはず」と、瀬戸教授は言う。一方で、前述の通り「密が発生すると局所的にエアロゾルの濃度が高まることになる」という。

そこで3つめとなる、人が存在する空間の中でも局所的に空気を浄化するという対策に注目が集まっている。「ある人を取り巻く周囲の空気を吸い取り、その周辺をきれいにするというもの」と瀬戸教授は説明する。エアパーティションなどといった製品は以前から存在するが、オフィスの「打ち合わせスペースなどに使われる用途としてはあまり開発されておらず、今後は大いに期待できる技術」だという。

ブース内だけでなく、フロア全体の空気を浄化

211027pana_air02.jpg

エアリーソリューション(ブースタイプ) パナソニック株式会社提供

この3つめの対策に早くから着目し、打ち合わせスペースなどの空間用に局所的な空気浄化の技術を実用化したのがパナソニック株式会社の「エアリーソリューション」だ。6人掛け程度のテーブルを置いた既存のスペースに設置できるブースタイプで、天井に設置された複数のルーバーから床に向かって空気が流れ出てくる。

「ルーバーから流れる空気は、周辺の空気を巻き込んだ誘引気流とともに、ブース内に下方向の均一なダウンフロー(面気流)を発生させる。このダウンフローが空間に浮遊するエアロゾルを床に落とす」と、同社の空間ソリューション事業推進部で主幹を務める谷口和宏氏は仕組みを説明する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業

ビジネス

米NY連銀総裁、インフレ鈍化を歓迎 「利下げには不

ビジネス

日本生命、米同業のコアブリッジに6000億円出資 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中