最新記事

中国経済

「人民元は急落しません!」で(逆に)元売りに走る中国人

2016年1月15日(金)06時15分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

中国人に投資好きが多いのはなぜか

 中国人には投資好きが多い。書店のベストセラーコーナーには健康本と並んで投資指南書がずらり。テレビでも投資指南番組は人気コンテンツだ。友人と食事をしていても「どんな投資をしている?」「どこそこのマンションは今、いくらぐらい」といった投資ネタは鉄板だ。

「投資好き、ギャンブル好きは中国の国民性」などと解説する人もいるが、長年の金融規制が投資好きの人々を育成したというのが私の見立てだ。中国では長年にわたり銀行金利が規制されており、預金しても物価上昇率をはるかに下回る利子しか得られなかった。つまり、銀行預金すれば資産価値は目減りしてしまう。ならば資産を守るためには投資しかないではないか。

 もちろん、よく分からないし勉強は面倒だからと投資を嫌がる人も少なくない。そうした人々にとって知識をあまり必要とせず、しかも安全かつ高収益なのが不動産だった。買えば必ず値上がりする時代が続くなか、月収を上回るレベルのローンを組むなど無理をしてでもマンションを買う人が続出した。ところが現在では不動産市場も低調で、不動産で儲けるにしても専門的知識が必要だ。

 不動産に頼れなくなるなか、魅力を増しているのが海外投資となる。ある程度お金がある人にとって選択肢となるのが海外不動産の購入だ。海外不動産専門の仲介サイトが乱立しているほか、大都市では投資仲介の実店舗も増えている。

 中国にいながらにして、外国の地名を眺めながらどこを買うべきか悩んでいる姿はなかなかに興味深い。日本の物件も人気で、中国人の知り合いから「**はどういう場所なの?」と質問されることも増えてきた。まとまった資金がない人ならば、米ドル建てや香港ドル建てのファンド、そして黄金が人気だという。

 こうした一般市民による「元売り」がどれほどの規模なのかは不明だが、新華社記事によって政府が気をもむ程度の問題にはなっていることが明らかとなった。「人民元は下落しません」と官制メディアがアピールしても、「そんなメッセージを出すってのは本当は危ないということ」と裏を読む人々。元安トレンドを見るやいなや機敏に海外投資へと向かう人々。こうした庶民は中国共産党による規制によって育てられたものであり、その対処に苦しむのは因果応報というべきか。

 中国政府は官制メディアによる啓蒙に加え、外貨両替規制やクレジットカードの海外キャッシング規制の徹底を通じて人々の動きをコントロールしようとしているが、「上に政策あらば、下に対策あり」とお国の裏をかくことに長けた中国の人々を管理することは容易ではないだろう。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

-中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最

ワールド

米政権の「敵性外国人法」発動は違法、ベネズエラ人送

ビジネス

テスラ、トルコで躍進 8月販売台数2位に

ワールド

米制裁下のロシア北極圏LNG事業、生産能力に問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中