最新記事

タブレット

キンドル・ファイアはiPadに勝てるか

アップルの独壇場だったタブレット型端末市場でアマゾンの新製品が初のライバルになるか

2011年11月7日(月)10時27分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

真剣勝負 199ドルという破格で「キンドル・ファイア」を売り出すアマゾン・ドットコムのベゾスCEO Shannon Stapleton-Reuters

 アップル「iPad」の独壇場と化したタブレット型情報端末市場のことを、ある投資家はこう表現した。「タブレット市場などありはしない。あるのはiPad市場と、辛うじて生き残ったその他の製品だけだ」

 しかし、アマゾン・ドットコムが11月15日に「キンドル・ファイア」を発売すれば、その勢力図も変わるだろう。キンドル・ファイアは7インチのカラー液晶画面で199ドル。iPadなら画面は9・7インチと大きいが、下位機種が499ドルもする。

 9月末にニューヨークでキンドル・ファイアを発表したアマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、「信じ難いほどお買い得」と宣伝した。「低価格のプレミアム商品だ」

 これまでアマゾンは、キンドルとiPadのユーザーはタイプが違うとしてアップルをライバル視してこなかった。だが、ついに戦端は開かれた。ベゾスはiPadを、パソコンと同期するのにケーブルが必要な「欠陥モデル」とからかった。

処理速度が速く、パソコンとも無線で同期

 これはあまりにも重要な戦争だ。アマゾンとアップルは、デジタルメディア界における覇権を争うことになったのだ。コンテンツ販売から始まったアマゾンと、端末販売から始まったアップルが、互いに相手のほうへ近づいて真ん中で鉢合わせしたわけだ。

 iPadに挑戦して敗れた他のタブレット端末と違い、キンドル・ファイアはiPadに大成功をもたらしたのと同じ秘密兵器を持っている。電子書籍や映画、音楽を売るオンラインストアだ。キンドル・ファイアには、クリック1つでアマゾンの通販サイトで買い物ができるソフトが組み込まれている。

 OS(基本ソフト)はグーグルのアンドロイドなので、アマゾンのアンドロイド向けアプリストアからアプリケーションをダウンロードできる。新しい高速ウェブブラウザ「アマゾン・シルク」は作業を2つに分け、より多くの作業を端末ではなくアマゾンのサーバー上で行うため、ページが表示されるのも速い。iPadと違い、パソコンとの同期も無線でできる。

 キンドル・ファイアをアマゾン・プライムと結び付けたのも賢い戦略だ。アマゾン・プライムは、年間79ドルで配送料がただになり、アマゾンが提供する映画やテレビ番組も無料で視聴できるサービス。キンドル・ファイアを買えば、このサービスが30日間無料で試せるという。

いずれiPad並みのサイズの新機種を投入?

 ただし不満もある。カメラやマイクロホンがないし、3Gネットワークに対応していないので通信は無線LANのある場所に限られる。メモリーは8GBとiPadの下位機種の半分だ。

 ITコンサルティング会社クリエーティブ・ストラテジーズのティム・バジャリン社長は、キンドル・ファイアには市場を一変させる可能性があると言う。「アマゾンにとっても業界にとっても重要な製品だ」

 だがiPadと真っ向から勝負するには画面が小さ過ぎる。電子書籍を読むのが主目的で、パソコンとしての使い方は二の次のユーザー向けの製品になる、とバジャリンは言う。アマゾンは来年にもiPadに対抗できる画面サイズの新機種を投入するとみるアナリストもいる。

 キンドル・ファイアは、いずれiPadのライバルになれるのだろうか。タブレット型情報端末でiPadに敗れ去ったサムスン電子やモトローラなどの雪辱を果たせるのか。

 投資家はできると思っている。新製品発表後、アマゾンの株価は2%以上上昇した。消費者がどう反応するかは発売を待たないと分からないが、私自身は今すぐ予約購入するつもりだ。

[2011年10月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下

ワールド

米大統領とヨルダン国王が電話会談、ガザ停戦と人質解

ワールド

ウクライナ軍、ロシア占領下クリミアの航空基地にミサ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 7
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 8
    もろ直撃...巨大クジラがボートに激突し、転覆させる…
  • 9
    日本人は「アップデート」されたのか?...ジョージア…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 6
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中