最新記事

債務問題

南北格差拡大でヨーロッパ分裂の危機

2011年5月12日(木)18時04分
ポール・アメス

 欧州に広がる新たなナショナリズムの主な攻撃対象は通貨ユーロだが、それ以上にポピュリストらの不満を掻き立てるのが移民問題だ。最近の民主化運動で情勢不安に陥った北アフリカ諸国からの移民の流入は、EUが誇るべき国境自由化の流れにも暗雲をもたらしている。

 27のEU加盟国の大半で国境での出入国管理が不要になったことは、ユーロ導入と並んで過去25年間で最大の具体的成果といえるだろう。

 1985年にルクセンブルクの小さな村で合意されたシェンゲン協定によって、EU市民は域内の大半の国の国境をパスポートなしで通過できるようになった(イギリスとアイルランドは不参加)。だが、北アフリカからの難民をめぐってイタリアとフランスが繰り広げる醜い争いによって、その歴史も変わろうとしている。

EU域内に「国境」が復活する?

 イタリアのロベルト・マローニ内相は先月、チュニジア革命勃発以来イタリアに押し寄せている2万5000人のチュニジア人難民の受け入れを他のEU諸国が拒んでいるとして、EUからの脱退を示唆。さらに、難民にイタリアの住民票を発行し、シェンゲン協定に則って彼らがEU域内を自由に移動できるようにした。難民の多くが向かった先は隣国フランス。フランス当局が怒り心頭なのは言うまでもない。 

 フランスとイタリアからの圧力を受けて、EU本部は急遽、加盟国が国境での出入国管理を再開しやすい形にシェンゲン協定を改定した。欧州委員会は出入国審査の再開は緊急時に限った措置だと念押ししたが、ユーロと並ぶEUの土台が脅かされていると懸念する声は強い。

「域内の自由な移動は多くの人々の生活を根底から覆す革命だ。今ではパスポートやビザをもたずに自由に行き来ができる」と、仏リベラシオン紙は先日、社説に書いた。「主権国家の古くさい象徴を取り戻すことを夢見るナショナリストや日和見主義の政治家が気に入らないのは、まさにこの歴史的、民主的な成果なのだ」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国

ビジネス

3月過去最大の資金流入、中国本土から香港・マカオ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中