最新記事

「対等な関係」という現実主義

日米関係
属国か対等か

長年の従属外交を脱して
「ノー」といえる関係へ

2009.11.10

ニューストピックス

「対等な関係」という現実主義

安全保障重視を脱却した鳩山政権の対米政策は「普通の国」への第1歩だ

2009年11月10日(火)12時41分
トバイアス・ハリス(日本政治・東アジア研究者)

 93年、小沢一郎は自由民主党を離党し、非自民の連立政権の誕生を導いた。その行動の背景にあったのは、日本は「普通の国」になるべきだという信念だ。

 アメリカは当時、小沢の力で日本はより能動的な同盟国に変身すると期待し、これからの日本は経済力に見合うだけの責任を国際社会で担うはずだと考えた。

 小沢は94年(日本では93年)に発表した著書『日本改造計画』で、野心的な政治改革構想をぶち上げている。日本は官僚主導から内閣主導へ転換し、国際問題でより積極的な役割を果たすべきだ──。

 そして09年、小沢は与党・民主党の幹事長に就任した。9月16日に発足した新政権を率いる鳩山由紀夫首相の代理として、党運営や国会対策を担うポストだ。

 首相就任に際し、鳩山は政府の機能を刷新すると宣言した。日本の指導者が政治を行うに当たってこれまで以上の自由を手にするべきだという鳩山の考えは、93年当時に小沢が唱えた「普通の国」構想の核を成すものだ。

 当時、小沢の主張は安全保障分野に限ったものだと受け止められがちだった。だが政治家が国内において官僚依存をやめ、外交においてアメリカ依存を脱してこそ、日本は「普通」になる。

 今や鳩山政権は構想を現実に変えることができる。アメリカには、その点を懸念する声もある。

 ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ジム・ホーグランドはこう述べた。「バラク・オバマ米大統領は、日本の官僚制度や自民党政権時代の大物政治家に悪魔のレッテルを貼る(総選挙の)勝者をなだめなければならない......去り行く大物たちはアメリカの忠実な友である一方、故国に尽くした」

軍事同盟の枠を超えてこそ

 鳩山政権はアメリカとの「対等な関係」、つまり日本がアメリカの要求ではなく国益に基づいて政策を決定することが可能な関係を望んでいる。言い換えれば、時と場合に応じてアメリカに「ノー」と言うことができる関係だ。

 同時に、対等な関係とは軍事同盟の枠を超えた関係のことでもある。その証拠に、民主党はマニフェスト(政権公約)でアメリカとの自由貿易協定(FTA)の交渉促進を提案した。この提案は日米が同盟関係の「再確認」と「一新」に同意した90年代半ば以降、両国がどのような関係を結んできたかを浮き彫りにしている。

 90年代前半の貿易戦争の後遺症から、日米は経済分野の問題を棚上げし、2国間協議のテーマを安全保障や在日米軍基地、日本の国際貢献に絞ってきた。

 もちろん、こうした協議は「対等」ではなかった。アメリカが変更を提案するたび、アメリカに安全保障を頼る日本は政治システムが許す限り要望に応えてきた。

 民主党の政治家、とりわけ岡田克也外相はこの不平等の解消を目指し、安全保障以外の問題を協議テーマとして復活させようとしている。その象徴的な例が温暖化対策での協力だ。インド洋での海上自衛隊の給油活動を延長しないという決断も、安全保障重視からの転換の必然的な結果にすぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中