最新記事

リーマン・ショック!

金融危機クロニクル

リーマンショックから1年、
崩壊の軌跡と真因を検証する

2009.09.10

ニューストピックス

リーマン・ショック!

米政府と大銀行幹部が破綻寸前のリーマン・ブラザーズをめぐって繰り広げた週末の崖っぷちバトル

2009年9月10日(木)12時08分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 アメリカの金融当局者とウォール街にとって、崖っぷちの週末が続いている。経営難に陥った政府系住宅金融大手、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の救済を発表した9月7日の日曜日に続き、この週末はニューヨーク連邦銀行にヘンリー・ポールソン財務長官やモルガン・スタンレーのジョン・マックCEO(最高経営責任者)、メリルリンチのジョン・セインCEOらが緊急会議のため集まった。月曜に市場が開く前に、全米4位の投資銀行、リーマン・ブラザーズの破綻回避策をまとめるためだ。

 リーマンにとって、事態は急を要する。ヘッジファンドはすでに他の証券会社に乗り換えるなど顧客離れが始まっているといわれ、格付け会社も格下げを警告している。このまま週が明ければ、1週間前までは誰も想像しなかった、連邦破産法11条の適用申請に追い込まれかねない。

 世界の金融市場への影響も大きい。リーマンの最大の問題資産は約300億ドルの商業用不動産だが、一方では資産運用部門ニューバーガー・バーマンのように収益力のあるビジネスももっている。金融危機の深刻化とともに、リーマンのような金融機関でさえ軒並み資本調達できなくなる悪夢を、世界は恐れている。

 それでも米政府は13日時点でリーマンに対する公的支援を否定しており、単独の買い手がつかないなら、数社が共同で買収する案や、会社をバラバラにして売却する案などを模索している。ぎりぎりの交渉のなかで米政府とウォール街がリーマン危機をどう処理するかは、アメリカの金融危機の今後を占う大きなターニングポイントになる。

 リーマンは、1週間で奈落に突き落とされた。韓国の政府系金融機関、韓国産業銀行への出資要請が不調に終わったと伝えられた9日には、株価が45%下落。ダウ工業株30種平均も、金融危機への懸念から280ドル下落した。前日には、住宅公社2社に対する2000億ドルの公的支援を好感して290ドルの大幅高をつけたが、一日で帳消しになった。リーマンは10日、資産売却で事業を大幅に縮小する再建策を発表したが、結局、週初めに14.15ドルだった株価は週末には3.65ドルまで下落した。

ベアーやファニーとは違う

 14日朝の時点で最も有力な買い手候補の英銀バークレイズやバンク・オブ・アメリカが決断を渋っている理由は、リスクの高い買い物なのに政府が支援を拒否していることだ。3月にJPモルガン・チェースが証券会社のベアー・スターンズを救済合併したときは、FRB(連邦準備理事会)が最大300億ドルの資金支援を約束した。

 リーマンの売却交渉がもたつく間に、株式市場はすでに、次の破綻懸念先に目を向けはじめている。米3大証券の一角、メリルリンチの株価は先週、38%下落した。

 それでもアメリカ政府は救済を拒むのだろうか。ポールソン財務長官に近い情報筋は12日、財務省がリーマンの買い手探しを支援していることを認める一方、公的資金を使う可能性は断固否定した。

 ベアーや住宅公社2社とは事情が違う、というのが財務省の主張だ。住宅公社の場合、両社が発行する債券は暗黙の政府保証つきとみなされ、中国人民銀行など世界の中央銀行が大量に保有していた。FRBによればその残高は、08年3月末時点で9850億ドル。アメリカ政府は、それが債務不履行に陥ることで重要な貿易相手国が大きな損失をこうむる地政学的リスクを冒すことはできなかった。「大きすぎてつぶせなかったわけじゃない」と、調査会社フュージョンIQのバリー・リソルツCEOは言う。「中国に借りがありすぎたんだ」

 ベアーとの違いは主に二つ。まず、リーマンはリスク管理には失敗したものの、まだ規模の抑制は利いていた。ベアーは、主力の証券仲介部門を通じて、数兆ドルもの仲介取引や裁定取引などの複雑な金融取引を行っていた。ベアーがつぶれれば、世界の銀行やヘッジファンドなどの金融機関が巨額の損失をこうむったところだ。こうした市場でのリーマンの規模は、ベアーほど大きくない。

 リーマンはFRBの「窓口貸出」も利用できる。ベアー救済を機に証券会社にも開放された、公定歩合による融資制度だ。これを活用すればベアーのように資金繰りに行き詰まることはないし、リーマンはその資金で短期債務を返済し、借入比率も削減している。つまり、リーマンがつぶれても、国際金融システムへの影響はベアーほどではない、という考えだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中