SPECIAL ADVERTISING SECTION

自分を創る音の風景

vol.1 雅楽士 東儀秀樹さん

2014年03月18日(火)12時01分

東儀秀樹

──そして宮内庁式部職楽部の楽生科で雅楽を学び始めるわけですよね。実際、雅楽に向き合ってみていかがでしたか。
「違和感はなかったですね。雅楽というのは決まったスタイルにどれだけ寄りそうか、そこが重要視されるんですけど、そのなかで昔の人の精神的背景にも関心を持つようになっていったんです。平安時代の貴族はどのように月を見たのか、どのように花を見たのか。平安時代の精神論や古代の人の知恵に関心を持つようになっていったんですね」

──雅楽を通じて平安時代に生きた人々の記憶や意識を追体験していったわけですね。
「そうですね。ただ、雅楽の最高峰である宮内庁でも、雅楽の精神的な背景に興味を持ってる人はそれほど多くないんです。演奏技術のみを継承していくところなんですね。彼らと僕の違いがあるとすれば、小さいころから雅楽だけをやってきた人と、いろんなものを吸収した後から雅楽に夢中になった人間という違いなのですが、<ロックやジャズと比べて、雅楽のこういう部分がおもしろい>という物差しみたいなものが自分のなかにあったから、誰よりもいろいろな好奇心と探究心が駆られていたのだと思います」

──これまで語られてこなかった雅楽の魅力を広く伝えたい、そんな意識もお持ちなんですか。
「<伝わるといいな>とは思っているんですけど、無理に伝えようとはしていません。<日本人ならばこの伝統を知ってください>と押し付けても、自分から興味を持ってくれなければ何にもならない。僕は篳篥でフュージョンぽい曲を吹いたり、ロック・バンドやオーケストラと一緒にやったりもしていますけど、そういうやり方だと雅楽に興味を持っていない方でも一種の<音楽>として楽しんでくれます。それをきっかけに、結局伝統の部分も自然に伝わるのです。音楽って自由なもので、どこにでも入り口があるんですよね。自分が好きなことを続けていたら、僕の音楽を通じて雅楽という古典を知る人も出てきたわけで、嬉しいことです」

──インタヴューの冒頭でお話いただいたような子供のころの記憶がインスピレーションとなって現在の表現になることもありますか。
「意識したことはないですけど、たぶんあるでしょうね。音楽だけじゃなく、ここまで自分を作ってきたすべてのものが今の僕の音楽や価値観を作っていると思うので。小さいころから雅楽だけに触れていたら、今でも宮内庁で古典だけをやっていたかもしれないですし、今のように自由に音楽をやっていなかったと思います」



PROFILE
東儀秀樹(とうぎひでき)◎雅楽士

東儀秀樹1959年東京生まれ。奈良時代より今日まで1400年間雅楽を世襲してきた楽家に育つ。高校卒業後に宮内庁の楽師として篳篥(ひちりき)を担当し、1996年デビューアルバム「東儀秀樹」で脚光を浴びる。2013年には初のポップスカヴァー・アルバムをリリース。

Supported by PHILIPS Fidelio
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中