コラム

G20議長国・中国に問われる世界市場混乱の説明責任

2016年02月24日(水)17時00分

 昨年12月から2016年1月初旬にかけて元安が大きく進展しました。2016年1月7日には1米ドル=6.5646元に設定され、2015年8月10日の同6.1162元からは7.3%の元安です。景気減速が続くなか、年初の元安進展が企業のドル建て債務の返済負担増加懸念を高めたこともあり、中国株は急落しました。上海総合株価指数は、2016年1月には月間22.6%の急落を演じ、再びグローバルマーケットの波乱要因となりました。

 12月以降の元安進展が、通貨当局が為替介入を減らした結果であれば良かったのですが、そうではありません。外貨準備は2015年12月には過去最大となる1,079億米ドルの減少を記録し、2016年1月も995億米ドルの減少となりました。2015年以降の累計では6,121億米ドルの減少です。外貨準備減少の原因は、元買い・ドル売りの為替介入の他にも、評価損やアジアインフラ投資銀行等への出資などがありますが、かなりの部分は為替介入によるものとみられます。

外貨準備の「浪費」は止めるべき

 大規模な資本逃避を抑制するには、資本規制の導入が一つの方策との見方がありますが、2016年10月1日以降、人民元はIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)に採用されることが決まっています。国際主要通貨の一角を占めることになる人民元の取引が大きく規制されるような事態は、却って混乱を大きくしかねません。

 当面のリスク要因は、元安進展ではなく、外貨準備の「浪費」です。米中金利差の拡大を背景に元安(ドル高)圧力が高まるなか、それを通貨当局が日常的な元買い(ドル売り)介入で阻止しようとすればするほど、外貨準備は減り、さらなる元安観測が高まり、資本逃避の動きが加速するというスパイラルに陥る可能性が否定できなくなります。

【参考記事】緩やかな人民元安か暴落か、2つの可能性

 足元で元安は一服しています。当然、背景には通貨当局による元買いドル売り介入があり、中国は現在進行形で外貨準備を費消し続けている可能性が高いのです。中国は2016年1月末で3.23兆米ドルの外貨準備を保有していますので、人民元レートを短期的に人為的に安定化させることは可能です。ただし、足元の外貨準備の減少額は毎月1,000億米ドルに達するなど、長期的にそれを「浪費」し続ける余裕はありません。

 1997年のアジア通貨危機の震源地となったタイでは、通貨防衛のための自国通貨買い支えで外貨準備が失われ、遂には通貨防衛の放棄を余儀なくされた苦い経験があります。結局、通貨の下落幅は大きくなり、影響の深刻化を招いたのです。中国は同じ轍を踏んではなりません。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

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