コラム

ニューヨークの治安回復に苦闘するアダムス新市長

2022年04月27日(水)10時50分

治安回復の期待から昨年11月の市長選で当選した警察出身のアダムス市長 Andrew Kelly-REUTERS

<警察出身のアダムス市長なら、治安回復で成果を出してくれると期待されているが>

ニューヨークでは、20世紀末に2期8年を務めたルディ・ジュリアーニ市長(共和党)が警察力を徹底強化し、一気に治安を回復させました。その成果をベースとして、21世紀初頭にはマイケル・ブルームバーグ市長(共和党のち無所属)が3期12年の間に、再開発やテック系企業の誘致など大規模なプロジェクトを推進し、経済的な繁栄を実現しました。

その後は、民主党左派のデビット・デブラシオ市長が2期8年を完走しましたが、デブラシオ市長はBLM(黒人の生命の尊厳運動)を強く支持し、むしろ警察予算の抑制などを主張して警察当局とは対立が生じました。デブラシオ市政の末期は新型コロナのパンデミックが発生、同市長は左派らしく徹底した感染対策を行いつつ、NYの都市経済の低迷に直面しながら任期を終えました。

その後に登場したのが、今年元旦に就任したエリック・アダムス市長(民主党)です。アダムス市長は、同じ民主党の市長でありながら前任のデブラシオ市長とは全てが反対です。デブラシオ市長は「白人、党内左派、警察力抑制」でしたが、アダムス市長は「黒人、党内穏健派、警察出身」だからです。

では、どうしてそんなアダムス氏が市長に当選したのかというと、ニューヨークではコロナ禍の影響で治安が極端に悪化する中で、警察出身で黒人である同氏ならば、治安回復の陣頭指揮に立ってくれるという期待があったからです。

コロナ禍で悪化した治安状況

そのアダムス市長ですが、現時点では悪戦苦闘しています。治安回復への期待と言っても、1993年にジュリアーニが市長に就任した時とは次元が異なり、大変に厳しい現状があるからです。

2020年3月にパンデミックが本格化すると、ニューヨークの昼間人口は激減しました。同時に地下鉄におけるクラスターが発生し、住民は地下鉄乗車を避けるようになり地下鉄の治安は悪化しました。一方で、2020年の夏から秋には、全市において無差別の銃撃事件が横行しました。犯行の背後にはパンデミックの閉塞感があると見られています。

2021年になると、警察のパトロールが徹底した結果、銃撃事件はやや沈静化しましたが、経済的な困窮を背景とした万引事件が多発するようになりました。多くの場合、実行犯には世情への怒りはあっても、自分の行動への反省はなく、多くの容疑者が犯行を繰り返していたと言います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story