コラム

中国は世界最大の「人質国家」

2015年09月25日(金)16時30分

 7月末、有名な現代アーティストのアイ・ウェイウェイが新たにパスポートを取得し、4年をかけてついに出国の自由を獲得した。習近平のアメリカ訪問を前に、有名な学者で政府に批判的な郭玉閃も1年近く拘束された後に保釈された。これとほぼ同時に、アメリカは中国が「赤い指名手配」を出して追っていた汚職官僚1人を中国に送還した。

 習近平のアメリカ訪問は、中国メディアが現在最も注目するニュースだ。習近平をめぐる各種記事の中でも興味深い視点は、現在の中国共産党が「人質外交」を行っている、というもの。米ソ冷戦の時代、国境付近で両国の情報要員がスパイを交換するシーンがよく映画で描かれたが、現在、米中の間で釈放されるのはすべて中国人だ。

 中国では、いまだに多くの弁護士と政府に批判的な人々が不当に逮捕され、あるいは出国を禁止されている。1人、また1人と親しい友人たちが警官によって夜中に家から連行され、自分たちの身の安全を心配した人権派弁護士たちがしばし家族と一緒に中国から離れようと空港に着いても、安全検査を通過した後の出国審査で阻まれて「国家の安全に危害を加える恐れあり」を理由に出国を禁じられる――。

 興味深いことに、中国共産党は自分たちの敵だと見なすこれらの反政府派が国境を出るのを禁止するだけでなく、官僚の出国についても非常に神経質になっている。「政府要員のパスポートはとりまとめて管理する」という言葉がはやっていることから分かる通り、地方政府は役人たちのパスポートを取り上げて、勝手に出国するのを防ごうとしている。

 大臣以上の高官の出国はとっくに許可制になっているが、それでも(胡錦濤前主席の腹心だった)令計画の弟は大量の党の機密資料を持ってアメリカに出奔。中国共産党を顔面蒼白にさせている。

 ある意味、中国は世界最大の「人質国家」だ。あらゆる人がこの国家に捕らわれ、中国共産党の人質となっている。彼らの身内すら例外ではない。

<次ページに中国語原文>

【お知らせ】中国・習近平体制とその言論弾圧ぶりを亡命漫画家・辣椒(ラージャオ)の作品を手がかりに鋭く切り取った新著『なぜ、習近平は激怒したのか/人気漫画家が亡命した理由』(高口康太著、祥伝社新書)が発売になりました。辣椒の政治風刺画も満載です!

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story