コラム

現代アートの動機(4):エロス・タナトス・聖性

2017年04月17日(月)17時10分
現代アートの動機(4):エロス・タナトス・聖性

草間彌生「Polka Dot Love Room」1967 (Photo by Tetsuya Ozaki)

<現代アートの作家が抱く創作の動機はどういったものなのか。今回は、王道とも呼べるほどに普遍的な主題、性、生、死、そして聖性について考える>

【前回の記事】現代アートの動機(3):思想・哲学・世界認識/私と世界・記憶・歴史・共同体

近年、草間彌生の人気がすさまじい。東京の国立新美術館で開催中の個展『草間彌生 わが永遠の魂』(5/22まで)は長蛇の列状態が続いているし、ワシントンD.C.のハーシュホーン美術館での個展『Yayoi Kusama: Infinity Mirrors』(5/14まで)では、代表作のカボチャ柄のオブジェが、観客の自撮りカメラによって破壊されたという(2017年2月27日付ハイパーアラージック。クレア・ヴーン「Museumgoer Breaks a Kusama Pumpkin, Allegedly in Pursuit of a Selfie」)(同じ事件を報道したアートネット・ニュースによれば、同様の作品は2015年10月のサザビーズ香港のオークションにおいて784,485米ドル(約9400万円)で落札されている)。

Yayoi Kusama - Obsessed with Polka Dots

"Yayoi Kusama: Infinity Mirrors" Exhibition - Hirshhorn Museum Washington DC / 03.18.2017

また、2017年3月6日付のワシントン・ポスト(ペギー・マッグローン「Kusama's mirror rooms attract record crowds to Hirshhorn」は、開幕から1週間の間にハーシュホーン美術館を訪れた観客は32,500人に上り、内14,000人強が草間展を鑑賞したと報じている。美術館によれば、これは同時期の数字としては40年間で最多であるとのことだ。

カボチャの表面にも見られるドット(水玉模様)は、ネット(網目模様)と並んで、いまや多数の善男善女に「カワイイ」と言われる草間の代名詞となっている。だが、世界的なスーパースターアーティストにはもうひとつ代表的なモチーフがある。ファリックシンボル、つまりペニスの象徴だ。草間は1962年、33歳のときに初めてソフトスカルプチュア(柔らかい彫刻)をつくった。それは、詰め物で出来た男根状の突起が、肘掛け椅子と長椅子を隅々まで覆い尽くすものだった。一見ユーモラスだが、よくよく見ると慄然としてくる作品を制作した理由を、本人は以下のように綴っている。


「とにかくセックスが、男根が恐怖だった。押入の中に入って震えるくらいの恐怖だった。それだからこそ、その形をいっぱい、いっぱい作り出すわけ。たくさん作り出して、その恐怖のただ中にいて、自分の心の傷を治していく。少しずつ恐怖から脱していく。私にとって怖いフォルムを、何千、何万と、毎日作りつづけていく。そのことで恐怖感が親近感へと変わっていくのだ」(『無限の網 草間彌生自伝』

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏の1行、資本要件満たさず=ECB年次報告

ビジネス

歳出最大97兆7100億円 18年度予算案、閣僚折

ビジネス

18年大胆予測、日銀YCC放棄 1ドル100円に=

ビジネス

中国の中央経済工作会議が開幕、来年の計画策定へ=新

MAGAZINE

特集:日本を置き去りにする作らない製造業

2017-12・19号(12/12発売)

ものづくり神話の崩壊にうろたえる日本。新たな形の製造業が広がる世界

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    米国防総省の極秘調査から出てきたUFO映像

  • 2

    太陽系の外からやってきたナゾの天体、宇宙人の探査機の疑いで調査へ

  • 3

    歴史的急騰が続くビットコイン 仕掛人は意外にも日本の個人投資家

  • 4

    ひき肉の偽装表示も99%の精度で暴く

  • 5

    北朝鮮の消えた政権ナンバー2は処刑されたのか?

  • 6

    推定500歳!地上で最古の脊椎動物はガリレオの時代か…

  • 7

    ウクライナ紛争ではびこる性暴力

  • 8

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 9

    孤独なオタクをのみ込む極右旋風

  • 10

    北朝鮮「亡命兵士」の腸が寄生虫だらけになった理由

  • 1

    太陽系の外からやってきたナゾの天体、宇宙人の探査機の疑いで調査へ

  • 2

    推定500歳!地上で最古の脊椎動物はガリレオの時代から生きてきた

  • 3

    北朝鮮の消えた政権ナンバー2は処刑されたのか?

  • 4

    中国が密かに難民キャンプ建設──北朝鮮の体制崩壊に…

  • 5

    高いIQは心理・生理学的に危険――米研究

  • 6

    北の核実験で広がる「幽霊病」と苛酷な仕打ち

  • 7

    EVとAIで人気のテスラ ささやかれる「自動車製造を…

  • 8

    「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営…

  • 9

    ビットコインのために自宅を担保にするバカ、米当局…

  • 10

    習近平、「南京事件」国家哀悼日に出席――演説なしに…

  • 1

    北朝鮮「亡命兵士」の腸が寄生虫だらけになった理由

  • 2

    北朝鮮「亡命兵士」の命を脅かす寄生虫の恐怖

  • 3

    金正恩を倒すための「斬首部隊」に自爆ドローンを装備

  • 4

    米朝戦争になったら勝つのはどっち?

  • 5

    「ICBM発射映像に炎に包まれる兵士」金正恩が目撃し…

  • 6

    太陽系の外からやってきたナゾの天体、宇宙人の探査…

  • 7

    「英王室はそれでも黒人プリンセスを認めない」

  • 8

    推定500歳!地上で最古の脊椎動物はガリレオの時代か…

  • 9

    北朝鮮外務省が声明「戦争勃発は不可避、問題はいつ…

  • 10

    「軍事衝突は近い。国防総省は在韓米軍の家族を退避…

胎内のような、安心感のなかでイマジネーションを膨らませる。
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版デザイナー募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 特別編集

最新版 アルツハイマー入門

絶賛発売中!