コラム

習近平とは何者なのか(1)

2011年01月18日(火)18時38分

 本誌1月19日号にも書いたが、ウィキリークスが年末に公表したアメリカ国務省の外交公電に、中国次期トップ習近平の知られざる素顔を暴く証言が含まれていた。「無骨な田舎者」「ビジネス感覚に長けたリーダー」「外国を敵視する危ない人物」――人となりを示す情報やエピソードが少なすぎるせいで、これまで習の素顔をめぐっては、チャイナウォッチャーの間でさまざまな憶測が飛び交っていたが、この証言は論争に終止符を打つかもしれない。それぐらい重要な中身が含まれている。

 公電は駐北京アメリカ大使館から09年11月に発信された。情報源は、アメリカ在住の中国人学者だ。在米中国人の情報が北京を経由し、地球を半周して国務省に戻った理由は定かでないが、そういった不可解さを差し引いても、この学者が語る内容は具体的で生き生きとした習近平のエピソードにあふれている。

 公電によれば、学者は習と同じ1953年に生まれた。習近平と同じく、父親は新中国の建国に貢献した革命第1世代で、毛沢東の出身地である湖南省の別の村で生まれ、初期から中国革命に参加した。学者の説明によれば、父親は「同時に日本と香港でも生活。労働運動のリーダーとして次第に頭角を現し、49年に中国に戻ったあと、初代労働部長(大臣)に就任した」のだという。

 中国の初代労働部長は1920年代に中国共産党を率い、後に失脚した李立三という政治家だが、彼に日本や香港での生活経験という公式記録はない。日本や香港で暮らし、中国革命に参じた人物といえば東京・新宿生まれで早稲田大学卒の華僑、寥承志がまず思い浮かぶが、公電の「父親」とは経歴が異なる。

 おそらくこの学者と接触した米外交官は、ニュースソースを秘匿するため複数の人物の経歴を混ぜ合わせた架空の「父親」をつくりあげ、本国に報告したのだろう。ただニュースソースがあやふやだからといって、この情報の確度が低いということにはならない。むしろ逆で、確度が高く貴重な情報源だからこそ、この外交官は学者を守ろうとしたのだろう(学者という職業も実は真実と違うかもしれない)。

 この学者や習ら革命第1世代の子供たちは、北京市内の一般市民からは隔離された場所で育った。2人は小さい頃には面識がなかったが、ともに文化大革命期に農村に送られ、文革が終わって北京に帰る頃までに個人的な知り合いになった。その関係は15年間にも及び、2人の進む道が在米学者と共産党の政治家に分かれたあとも続いた。

 そして学者は驚くべき習近平の「個人情報」を語り始める――。(続く)

――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)

習近平とは何者なのか(2)
習近平とは何者なのか(3)

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story