コラム

習近平とは何者なのか(2)

2011年01月26日(水)12時01分

*「習近平とは何者なのか(1)」はこちら。

 ウィキリークスが年末に公表したアメリカ国務省の外交公電に、中国次期トップ習近平の知られざる素顔を暴く証言が含まれていた。情報源は、習と同じく新中国建国に貢献した「革命第1世代」を父にもつアメリカ在住の中国人学者。ともに文化大革命期に農村に送られ、友人を介して知り合った2人の関係は15年間にも及んだ。

 76年に文革が終わって2人の父が復権すると、その家族は北京の西にある南沙溝(ナンシャーゴウ)という政府高官専用の居住区に移り住んだ。1977年のある日、教授が南沙溝のアパートのドアを開けると、ホールに習が立っていた。その後2人はほぼ毎日語り合う関係を5年間続け、教授が北京師範大学の学生になったのと対照的に、習は人民解放軍の職員になり、毎日軍服を着て出勤した。南沙溝にはのちに名を知られる中国のリーダーが多く住んでおり、江沢民はそこでしょっちゅう自転車を乗り回していたという。

 その後82年から87年にかけて習は地方勤務、教授がアメリカ留学と道が分かれ、2人は時々会うだけのやや疎遠な関係になっていた。直接会ったのは80年代中ごろに教授が習の勤務先のアモイを訪れ、87年に習がワシントンに留学していた教授のもとを訪ねたぐらい。この87年の習のワシントン訪問が直に顔を合わせた最後の機会になった。

 教授によれば、習はかなり若いころから「きわめて野心的に」「『目標』を狙っていた」という。「目標」とはほかでもない中国のトップだ。そのために習は大学を卒業するとまず人民解放軍を指導する中央軍事委員会の職員となり軍にコネをつけた。さらに父親が元副首相という自らの背景を考えれば、そのまま北京に残っても十分な出世は望めるはずなのに、あえて地方勤務というイバラの道に進んだ。外交電文の中で教授はその理由について次のように述べている。

 
 習は教授に対して、(中央軍事委員会秘書長で習が仕えた政治家)耿飈のそばにいることで結局は自分の権力基盤が小さくなる、父と耿飈のネットワークに依存することにもなる、さらに中央にとどまることで人民が自分に背を向けるようになる――と語っていた。

 そして習は82年に河北省石家荘市で地方勤務の第一歩を踏み出す。そのとき習は教授に「きっと(北京に)戻る」「(地方に行くことだけが)権力の中枢に至る唯一の道だ」と言い残していた。と同時に、習は自ら望んで地方勤務に赴くとはいえ、中央とのパイプを保ち、常にその動きに注意を払っておく重要性も理解していた。習は最初は父の人脈を利用し、のちに自らのコネクションをつくりあげた。

「人はその過去から自由になることはできない。習もそうするつもりはない」と、教授はアメリカ人外交官に対して語っている。教授の習近平評は「野望を抱き、計算高く、自信家で目標のはっきりした人物」だ。とすれば「無骨な田舎者」というイメージは、大衆受けを狙ってつくられたものである可能性が高い。07年の第17回党大会でズボンのすそから黒い靴下と素肌をのぞかせた写真が公表され、「庶民派」「ほかの太子党とは違う」という評論が広がったが、それも習の本質とは必ずしも一致せず、世界を震撼させた「中国をあげつらうな」発言も周到な計算のうえ、だったことになる。

 教授の証言によれば、習はまがうことなき「太子党」である。そして、教授は中国で権力の中枢を握り続ける太子党のメンタリティについて、驚くべき「実例」を挙げて解説を始める――。(続く)

――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)

習近平とは何者なのか(3)

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story