コラム

「ヨーロッパ屈指の汚職体質」ウクライナ──先進国の支援は有効活用されるか

2023年02月13日(月)14時45分

古典的な例としては、第二次世界大戦直後の中国で国民党と共産党が衝突した国共内戦があげられる。アメリカは大戦中から共産党を警戒し、国民党を支援していたが、最終的に1947年にこれを打ち切った。国立台湾大学の孫同勛教授はその大きな要因として、国民党の腐敗をあげている。国民党指導層には支援の私物化が目立ったのだ。

当時、ヨーロッパではベルリン封鎖をめぐって米ソの対立がエスカレートしつつあった。

一方、当時の時代背景のもとでは中国大陸を共産党に握られてもアメリカが被るダメージは限定的だった。その結果アメリカは、中国大陸でザルに水を注ぐことはしなかったといえる。

友好国だから信用できるのか

より最近の例では、アフガニスタンがこれに当たる。

2001年以降、アメリカはアフガニスタンで1兆ドル以上費やしたが最終的にイスラーム勢力を駆逐できないまま2021年に撤退した。その一つの要因は、アメリカ自身がテコ入れし、初めての民主的選挙で成立したはずのアフガニスタン政府が、やはり膨大な資金援助に慣れ切り、汚職にまみれたことだった。

政治家から軍人、末端公務員に至るまで、治安対策より不正蓄財に熱心になった結果、アメリカ撤退に合わせてタリバンが大攻勢を仕掛けてきた時、正規軍兵士ほど戦場から逃れ、政府要人ほどいち早く国外に脱出することが目立った。そのため、少なくないアフガン国民が政府に辟易したとしても不思議ではない。

つまり、「汚職が蔓延するアフガン政府にこれ以上テコ入れしても無駄」、「タリバンがアメリカを攻撃しないと確約すればそれで問題ない」という割り切りがあったからこそ、タリバン復権を承知でアメリカはアフガニスタンから撤退したといえる。

ゼレンスキー政権もこうした先例を承知しているだろう。まして、米国では昨年の中間選挙でウクライナ支援に消極的な共和党が議会下院を握った。

こうしたなかで支援を確保するためには、「ウクライナが民主主義国家の一角であること」や「ロシアが先進国をも攻撃しかねないこと」を強調するだけでなく、その実態はともかく「汚職対策に熱心」とアピールすることが必要になっている。

たとえ友好国でもお互いを信用し切らない。ウクライナと先進国の間の微妙な関係は国際政治の冷たさを象徴するといえる。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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