コラム

小沢剛が挑んだ「ユーモアx社会批評」の試みとは

2022年08月04日(木)11時05分

銀座の一等地で経費をかけずに毎月一人の無名アーティストに展示してもらう、世界最小の画廊空間というラディカルなものであったが、数か月程度で警察が来て銀座での継続は不可能となる。(以降、流浪の画廊として場所を移動した後、展覧会等に招かれるようになる)

miki202208ozawa-1-4.jpg

《なすび画廊―会田誠「さりん」》1994年(個人蔵)

しかし、貸画廊という日本独自の制度に問いを投げかけ、新しい空間の使い方や、土地や建物がなくてもアートが成立することを示すことになった。

グループでの活動としては、92年に再現芸術集団「スモール・ビレッジ・センター」の活動に参加。1960年代のハイレッド・センターならぬ、小沢剛、村上隆、中村政人の名字から小(スモール)、村(ビレッジ)、中(センター)を組み合わせた名前に明らかなように、戦後の美術の流れ、特にパフォーマンスについて知らなさすぎるため、テキストで読む知識だけでなく再現して検証しようという村上の提案により、大阪など各地でパフォーマンス再現を試みた。

この活動は短期で終了したが、94年には、同じ昭和40年生まれのアーティストや音楽家ら(現メンバーは、小沢のほか、会田誠、大岩オスカール、パルコキノシタ、松蔭浩之、有馬純寿)が集まって昭和40年会を結成。

本グループは、それぞれ作風が大きくかけ離れていることもあり、あくまでも個人の集合体で作品の協働制作などはあまりしないが、時にグループ展を行うなどしつつ、現在も緩やかに活動を継続している。

よくある美術家団体のパロディとか、その後のより若い世代のアーティストコレクティブ活動への影響を指摘する声もあるが、この団体の最大の特徴は彼らが育った高度成長期の日本という時代社会をテーマにしていることだろう。

さて、冒頭の「醤油画資料館」は、20世紀の終わりにあたり、美術を通して日本を振り返るという主旨で発想されたものである。

90年代以降アジアへの関心が高まり、1999年に福岡にアジアの近現代作品を専門的に扱う福岡アジア美術館が発足し、その開館記念の「第1回福岡アジア美術トリエンナーレ1999」に出品された。

日本人の視点で捉えるのに最もしっくりくるものとして、醤油で描かれた古代から戦後の前衛芸術に至る名画の数々は、明治以降、海外から輸入された美術の概念や技法を受容することになった日本の美術史体系の在りように対する批評的な問いである。また、昔のアーティストたちの筆をなぞることは、彼らがどう作っていったのかを追体験し、彼らの視点を作品に介在させることでもあった。

miki202208ozawa-1-5.jpg

《讃岐醤油画資料館》1999年(鎌田醤油株式会社、香川)

本稿は基本的に本人からの聴き取り等を元に構成。
その他参考文献:
『小沢剛世界の歩き方』(有)イッシプレス、オオタファインアーツ、2001年
「小沢剛 不完全―パラレルな美術史」展図録、千葉市美術館、2018年
「小沢剛展 オールリターン 百年たったら帰っておいで 百年たてばその意味わかる」ブックレット、弘前れんが倉庫美術館、2020年

野菜の銃とヤギの世話? 現代アーティスト小沢剛の作品が秘めた意図とは? に続く。


※この記事は「ベネッセアートサイト直島」からの転載です。

miki_basn_logo200.jpg





プロフィール

三木あき子

キュレーター、ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター。パリのパレ・ド・トーキョーのチーフ/シニア・キュレーターやヨコハマトリエンナーレのコ・ディレクターなどを歴任。90年代より、ロンドンのバービカンアートギャラリー、台北市立美術館、ソウル国立現代美術館、森美術館、横浜美術館、京都市京セラ美術館など国内外の主要美術館で、荒木経惟や村上隆、杉本博司ら日本を代表するアーティストの大規模な個展など多くの企画を手掛ける。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米国の台湾への武器売却を批判 「戦争の脅威加

ビジネス

11月ショッピングセンター売上高は前年比6.2%増

ビジネス

中国の海外ブランド携帯電話出荷台数、11月は128

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story