コラム

日本と欧米の「福祉車両」から、高齢者・障害者を取り巻く環境の違いが見えてくる

2021年05月28日(金)19時30分

──日本で欧米同様に本人主体の福祉車両が発展しない理由は何か。

日本の場合は、障害者や高齢者本人の意思が非常に小さい。本人がどうしたいのか、どうされたいのかが分からない。迷惑をかけたくないと遠慮するため、思っていても言わない。サポートする周囲の人も分からないために、本人の意向を待つよりも先回って済ませてしまう。こうして本人の声はどんどん小さくなって消えていってしまう傾向にある。

日本の福祉車両・介護車両は、「介護する側は健常者」ということが前提にある。そして自動車メーカーがそれらの開発や販売を行っている点も欧米と異なる。「福祉車両」の4文字は日本独自の表現だ。草創期は日本でも欧米のように、本人主体で設計されていたが、日本の福祉に対する考え方の影響を受け、介助する側主体へとシフトしていった。日本の場合、福祉車両があるため、一般的な車両に後付けすることは容易ではなく、後付けの部品を作るメーカーや取り付けを請け負う整備事業者も少なくマーケットが育っていない。

根本的な考え方が異なるがゆえに、福祉・介護車両の使われ方、車両のアウトプットやマーケットも大きく異なる。

福祉車両は自操式と介護式に分けることができる。自操式が本人主体で、介護式が介護者主体だ。医療技術の進展による長寿命化で、障害者のみならず、身体が思うように動かない高齢者が増え、障害者と高齢者の課題で一致する部分が増えてきている。また彼らのニーズも変わってきているため、自動車メーカー製の介護車両のみでは対応できなくなりつつあると感じている。

何人たりとも社会参加

──日本で障害者や高齢者が自ら運転して自由に移動できるようにするために必要なことは何か。

イタリアやスウェーデンなどでは、医師が書く意見書が強い力を持っている。この患者はこのような障害があるので、それを補う機器をカスタマイズして、社会復帰させなさいという内容だ。それに基づいて、さまざまな補助金制度が用意されている。アメリカや韓国も似たような考え方だと聞いている。

このような国々は障害者や高齢者であっても就労し、その対価として給料を受け取り、納税するという、何人たりとも社会の基本サイクルに参加する文化が根付いている。

イタリアは日本の約半分の人口、日本の約5分の4の面積にも関わらず、自操式の福祉車両のメーカーが20から30社もあり、選択肢が多く、それらをカスタマイズして取付ける事業者が全国に当たり前のようにある。しかも、それらの会社がしっかりと利益を出せるようになっている。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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