コラム

米史上で最も重大なサイバー侵害も...中国サイバー攻撃は「新時代」へ、経済スパイからどう進化?

2025年09月14日(日)19時36分

FBIはアメリカ史上最も重大なサイバー侵害のひとつと認識

この攻撃工作が世界規模であり、3年という長期間にわたっていたことで、中国のスパイ機関は広範なデータを収集し、従来のスパイ活動をはるかに超えた包括的な情報収集が可能になった。FBIはこれをアメリカ史上最も重大なサイバー侵害のひとつと認識している。

中国のスパイ機関は、盗んだ位置情報データを通じて、ターゲットの移動を追跡することが可能になっていると見られる。深刻なプライバシーと安全保障上の懸念を引き起こしており、民間企業のみならず、政府機関なども狙われる。そんなことから、FBIは標的となった可能性のある約600社に通知を行い、米当局は、エンドツーエンド暗号化メッセージの使用を促している。

しかもこれら攻撃グループは、明らかに台湾有事を視野に入れている。製造業や公益事業社、交通や建設分野のみならず、海事、IT、教育、政府を含む各セクターにマルウェア(悪意あるプログラム)など「デジタルの罠」を埋め込んでいる。埋め込まれたマルウェアは、台湾有事のような事態に、アメリカなどの作戦を妨害する能力を最優先に設計されている。しかも、それを検知されないようプログラムされてもいるのである。

「ファイブ・アイズ」(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の同盟関係をもつ米当局は、中国の攻撃グループのマルウェアを、財政的な動機のない複数の同時多発的なランサムウェア攻撃であるとみなしている。そして広範な経済的・社会的被害を引き起こすための重要な戦略的なツールになっていると認識している。例えば、2019年にイギリスの警察の鑑識を麻痺させた民間企業への攻撃や、2021年にアメリカで起きた米最大手のパイプライン企業コロニアル・パイプラインの操業停止事件などがその例だ。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

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