コラム

『ウォーキング・デッド』が犯罪学や社会学の「素晴らしい教材」と言える理由

2025年05月08日(木)14時30分



筆者も、このドラマが人気があることは知っていたが、「ゾンビなんて」ということで、ずっと敬遠してきた。同じ理由で、映画『カメラを止めるな!』も見ていなかったが、「だまされたと思って」と勧められたため、気乗りしないまま見たら、これがすこぶる面白かった。

そんなことがあったので、『ウォーキング・デッド』も、「とりあえずシーズン1だけは見てみるか」という気になり、見始めた。結果、すっかりハマり、全シーズンを見て、スピンオフシリーズも見続けている。恐るべきドラマだ。今なら素直に、世界中を魅了しているのもうなずける。

このドラマの魅力は、まさに「オッカムの剃刀」にある。社会学者から見ると、『ウォーキング・デッド』は社会学の縮図のようだ。家族、仲間、集団、地縁、交換、産業、都市、分業、役割、情報、差別、LGBT、偏見、成長、喪失、DV、育児、環境、障害、経営、犯罪、教育、宗教、疫病、秩序、紛争などが、ドラマのモチーフとして盛り込まれている。

とりわけ、コミュニティの形成と拡大の描き方は圧巻である。狩猟社会から農耕社会、そして工業社会へと続く人間社会の発展プロセスを、『ウォーキング・デッド』の中で確認することができるのだ。もちろん、ゾンビは登場するが、それは原始社会における猛獣のメタファー(たとえ)にすぎない。

魅力的なキャラクターが多く登場するものの、猛獣(ゾンビ)に囲まれた環境下で、試行錯誤するコミュニティの生きざまこそ、このドラマのメインテーマである。そういえば、「コミュニティ」という言葉の語源は、「共に守る」を意味するラテン語だとする説がある。いずれにしても、コミュニティが持つダークサイドとブライトサイドというアンビバレント(二律背反的)な現実を見せつけられ、ため息を禁じ得なかった。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ「安全の保証」関与表明 露ウ

ワールド

ウクライナ安全保証を協議、NATO加盟は議論せず=

ビジネス

米アリアンツ・ライフ、サイバー攻撃で顧客110万人

ビジネス

豪ウッドサイド、上期は前年比24%減益 価格下落と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 9
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 10
    米ロ首脳会談の失敗は必然だった...トランプはどこで…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story