コラム

英国で「最も有名な通り」を、再びショッピングの聖地に...物議を醸す試みでロンドンは蘇る!?

2024年09月17日(火)20時42分
オックスフォード・ストリートの歩行者天国化は成功するか

ロンドンのオックスフォード・ストリート alice-photo/Shutterstock

<ロンドンのサディク・カーン市長は「この通りを再び世界屈指の小売業の聖地にする」と意気込んでいるが懸念の声も上がっている>

[ロンドン発]ロンドンのサディク・カーン市長(労働党)が2017年に表明したオックスフォード・ストリートの歩行者天国化がようやく実現に向けて動き出した。英メディアが一斉に報じた。カーン市長は「この通りを再び世界屈指の小売業の聖地にする」と意気込んでいる。

当初はロンドンの新たなランドマークとなる公共スペースとワールドクラスのショッピングエリアを創出するため、オーチャード・ストリートとオックスフォード・サーカス間約830メートルの東西方向の交通をすべて制限する計画だった。

18年12月のエリザベス線の開通(実際には22年5月にずれ込む)に合わせ、有名なショッピングストリートの一部を車やバス、ブラックキャブ(黒塗りタクシーのこと)のためではなく、人のためのスペースに生まれ変わらせるという触れ込みだった。

交通アクセスや混雑を懸念する声

新しい公共スペースや周辺にサイクリング・ルートを設け、歩道も拡張する。目玉となる800メートルの長さのパブリック・アートの設置も検討されていた。当時、カーン市長は「これは首都にとって非常にエキサイティングな瞬間だ」と胸を張った。

16年夏以降、ロンドン交通局はオックスフォード・ストリートを走るバスの本数を40%削減、エリザベス線開通後はさらにバスの本数が減ると見込まれていた。オンライン調査では回答者の62%が歩行者天国化を支持したものの、交通アクセスや混雑を懸念する声も強かった。

22年5月の地方選まで地元のウェストミンスター区議会は保守党が圧倒的多数を占めていた。区議会は「車を排除すると近隣住宅地の交通量が増える」「車でのアクセス、配達、ビジネス、タクシーに頼る人々に影響が出る」としてカーン市長とは別の計画を進めていた。

米国のお菓子や怪しげなお土産を売る店が増える

歴史的にも文化的にも重要な位置を占めるオックスフォード・ストリートでは「米国のお菓子や怪しげなお土産を売る店が増えている」(英紙ガーディアン)のが実態だ。20年前にもケン・リビングストン市長(当時、労働党)が歩行者天国化を提案したが、否決されている。

「渋滞解消のため馬車が禁止されてから約1世紀。今、新たな計画のもと、オックスフォード・ストリートに列をなす赤い2階建てバスや黒塗りタクシーは別のルートに変更されることになった」(同紙)。伝統を重んじる英国は時代の流れに合わせるのが苦手なのかもしれない。

カーン市長は歩行者天国化で観光客と消費が増え、税収も増加するとアピールする。「オックスフォード・ストリートは英国小売業の王冠に輝く宝石のような存在だったが、この10年で大きな打撃を受けた。英国で最も有名な目抜き通りを再生させるためには早急な対応が不可欠」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

株式と債券の相関性低下、政府債務増大懸念高まる=B

ビジネス

米国株式市場=ナスダック連日最高値、アルファベット

ビジネス

NY外為市場=ドル全面安、FOMC控え

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story