コラム

「英中蜜月」の終わり──英国でも日本でも米国の国益に反した政権は崩壊する

2016年08月03日(水)17時00分

習近平を国賓として迎えたエリザベス女王(2015年10月) Dominic Lipinski-REUTERS

対米関係をおろそかにして対中関係を重視した政権は短命に終わることが多い。中国主導のAIIBに参加したり、中国も出資する原発を建設しようとするなど、キャメロン前政権時代に経済優先で親中に舵を切ったイギリスも、いま軌道修正を迫られている

 安倍晋三首相は先の参院選で快勝し、宿願の憲法改正に向けて大きく前進した。戦後日本の長期政権を振り返ると、いくつかの共通項がある。佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、そして安倍首相といずれも親米政権だ。次に倒閣運動を起こす強力なライバルが党内に見当たらない。そして参院自民党を牛耳るドンの支持を得ていることだ。第3の要件は2012年に再起を果たした第2次安倍政権から消失した。安倍首相1人に権力が集まり、官邸主導が強まっているからだ。

 民主党の鳩山由紀夫元首相を例に上げるまでもなく、対米関係をおろそかにし、対中関係を重視した政権は必ずと言って良いほど短命に終わる。驚異的な経済成長を遂げ、南シナ海や東シナ海で米国の同盟国に揺さぶりをかける中国は、米国にとって真の脅威だ。これ以上、中国に経済力と軍事力をつけられるとさすがの米国でも手に負えなくなる日がやって来る。そんな懸念からオバマ米大統領は日米同盟を強化し、欧州諸国にも中国を利するのは止めるよう釘を刺してきた。

【参考記事】中国軍軍事力強化表明――鳩山氏が筆頭演説した世界平和フォーラムで

 米国の国益に背いた政権が倒れるというのは日本だけでなく、どうやら英国にも当てはまるようだ。ジョージ・W・ブッシュ元米大統領とトニー・ブレア元英首相が主導したイラク戦争の是非を検証した独立調査委員会(ジョン・チルコット委員長)の報告書はブレアの対米追従を浮き彫りにしたが、米国の国益に逆らって「英中蜜月」を推進したデービッド・キャメロン前首相も、ジョージ・オズボーン前財務相も政治の表舞台から完全に姿を消した。

AIIBへの参加表明で墓穴

 オバマは「英国が欧州連合(EU)から離脱すると、米国との貿易交渉は一番後回しになる」とEUへの残留を求めたが、英国民は国民投票でEU離脱を選択した。残留派キャンペーンの先頭に立ったキャメロンとオズボーンの退場はその責任を取った形だが、次期首相の最有力候補だったオズボーンの芽はこれで完全に潰れた。オズボーンこそ、米国の忠告を無視して先進7カ国(G7)の中でいち早く中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明して流れをつくり、米国を激怒させた張本人なのだ。さらには人民元の国際化を後押しし、中国の原発計画参入にまでゴーサインを出した。

【参考記事】英中「黄金時代」の幕開けに、習近平が「抗日」の歴史を繰り返した理由

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南山」、そして「ヘル・コリア」ツアーへ
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 10
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story