アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブーム到来
写真は「アーバ」のミネラルウォーターをグラスに注ぐアバンティ・メータさん。2025年10月、インド・アーメダバードで撮影。REUTERS/Amit Dave
Aditya Kalra Rishika Sadam
[ニューデリー 31日 ロイター] - インドの高級食料品店で、国内最年少「ソムリエ」を自称するアバンティ・メータさん(32)が飲料のブラインドテイスティングを主催していた。原産国はフランス、イタリア、そしてインド。参加者は小さなショットグラスで口に含み、ミネラル分や発泡感、塩気を評価していた。これはワインの話ではない──水だ。
使われたサンプルは、仏アルプス地方の「エビアン」、南仏の「ペリエ」、伊「サンペレグリノ」、印アラバリ山脈の「アーバ」だ。
「どれも味が違う。栄養価のある水を選ぶべきだ」とメータさんは言う。家族はインドの高級ミネラルウォーターブランド、アーバのオーナーだ。
世界最多の14億人が暮らすインドでは、「高級水」市場が4億ドル(約622億円)規模まで急成長。健康ブームの広がりと相まって新たなステータスシンボルとして富裕層の注目を集め、市場は拡大を続けている。
地下水のおよそ7割が汚染されているとの指摘もあるインドで、清潔な水を飲めるのは一部の人の特権だ。水道水は依然として飲用に適さない。インドール市では昨年12月、汚染された水道水を飲んだ16人が死亡した。
インドでは飲用水は必需品と見なされ、一般的なボトル入りの水は多くのコンビニエンスストアやレストラン、ホテルなどで最低0.20ドルほどで手に入れることができる。市場規模は年間約50億ドル。見込まれている成長率は年間24%と、世界的にも最速水準だ。
アーバの販売価格は1リットルあたり約1ドルだ。一方の輸入ブランドは3ドル以上と、国内最低価格の約15倍の価格をつけている。
市場調査会社ユーロモニターによると、米国や中国で飲料水需要を支えているのは「利便性」で、両国とも300億ドル以上の市場規模を誇るが、年間成長率はわずか4ー5%程度にとどまる見込みだという。他方、インドでは「高級水」部門が需要急増を主導し、25年のボトル入り飲料水市場全体の8%を占めた。21年は1%だった。
同社で飲料市場を専門とする上級コンサルタント、アムリヤ・パンディット氏は「一部地域では水道水への不信感がボトル入り飲料水の需要を押し上げている。人々は今、ミネラルウォーターの健康効果を知った。高価だが、この部門は急成長するだろう」と述べた。
ニューデリーの不動産デベロッパー、B・S・バトラさん(49)は消費者の1人だ。より多くのミネラルを取り健康を守るため、家族は自宅で「高級水」しか使わないという。
「日中の活力が明らかに増す」と、熱心なバドミントン愛好家でもあるバトラさんは言う。「私はウイスキーをミネラルウォーターで割るし、子どもらはスムージーに使っている」。
<ボリウッドスターや富裕層を魅了>
最低価格のペットボトル飲用水の主な製造・販売元はペプシコやコカ・コーラ、そして国内市場首位のビスレリだ。経済的に余裕のあるインド人は自宅に浄水器を設置しているが、きれいな水を飲める半面、ミネラル分もほとんど除去してしまう。
輸入と国産、両方の商品が富裕層消費者と企業を魅了している。
ボリウッドスターのブミ・ペドネカールさんとその姉妹は、750ミリリットルのミネラルウォーターを2.2ドルで販売する企業「バックベイ」を立ち上げた。
インド大手財閥タタ・グループは「高級水」事業を拡大し、小売業者や企業は売上高の増加を報告している。インドでスターバックスのパートナー企業でもあるタタ・コンシューマー・プロダクツも0.20ドルのボトル入り飲料水を販売。ただスニル・ドソウザ最高経営責任者(CEO)はインタビューで、健康志向の富裕層消費者が価格を気にせず飲料に購入する姿勢を見せていることから、高級ミネラルウォーター事業を同社の優先事項に挙げた。
「水を無理に売り込む必要はない。事業の成長余地はまだまだ大きい」とドソウザ氏は語った。
ロイターのカメラマンは、タタの高級水ブランド「ヒマラヤン」の製造工場を取材した。北部ヒマーチャル・プラデーシュ州のヒマラヤ山脈に位置するこの場所で、従業員らは、地下の帯水層からくみ上げられた水がペットボトルやガラス瓶に詰められていく様子を、機械にほとんど触れることなく監視していた。
<源泉探し>
多くのインド人は炭酸を含まない水を好むため、炭酸水は依然としてニッチな市場だ。タタは「ヒマラヤン」の炭酸入り商品の発売を計画しているほか、他の製品ライン拡大のため、新たな天然水源を探しているという。
インドのグルメ食料品店チェーン「フードストーリーズ」の3店舗では昨年、高級ミネラルウォーターの年間売上が前年比3倍に増加。共同創業者のアブニ・ビヤニ氏によれば、顧客の要望に応えて「軽やかでまろやかな」サラトガ・スプリングウォーターを米ニューヨークから輸入したところ、799ルピー(約1380円)の355ミリリットルのボトルが数日で完売したという。
アーバの売上高は昨年、過去最高の8億0500万ルピーに達し、21年以降毎年40%の成長を続けている。タタグループは、一般的な飲料水と高級ミネラルウォーターの事業が6年間で10倍の6500万ドルに成長を見せており、今後も年間30%の成長を続けるだろうとの見方を示した。
30%超の課税対象となる輸入水は、国内ブランドよりも高価だ。ネスレのペリエとサンペレグリノ、ダノンのエビアンは750ミリリットルのボトルが300ルピー超で販売されている。
ダノンは国内飲料水ブランドが「堅調」に成長している一方、輸入品には「ニッチで高級志向の傾向がある」と述べた。ネスレはコメントを控えた。
「蛇口をひねってもアーバやエビアンは出てこない。購入しているのは『高級感』そのものだ」と、前出のメータさんは言う。
一部の参加者は水の試飲会を楽しんだようだが、多くはその価格に首を傾げた。
「正直言って、かなり高価だ」と、イベント参加者14人の1人で企業幹部のホシニ・バラバネニさんはこぼした。「日常使いをしたら財布が空になってしまう」
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