コラム

アマゾンがコンビニ進出! Amazon Goは小売店の概念を180度変える

2016年12月20日(火)16時07分

膨大な顧客情報を収集できる

 ネットなどでは、目新しいテクノロジーに関心が集まっている。確かに、完全自動化され、商品を手に取ってそのまま店を出れば課金されるという仕組みは、近未来的でスマートである。だが、アマゾンのコンビニがもたらす真の影響は、こうした目に見える部分ではなく、小売店というビジネスの業態そのものに及んでくる。

 従来の小売店と比較した場合、最大の違いとなるのは、おそらく立地条件である。アマゾンのコンビニはネット通販の顧客がアプリをインストールしてから入店することになるので、基本的に「一見さん」は来店しない。このため、繁華街から一本入った路地でも出店が可能であり、無人化との相乗効果で店舗の運営コストが大幅に下がる可能性がある。

 また、商品の品揃えも、将来的には従来の小売店の常識とはかけ離れたものになるだろう。アマゾン側はネット通販における購買履歴を元に、利用者が何を欲しているのか常に分析・把握している。同社のリコメンデーション・システム(いわゆる、オススメ商品)の精度の高さはよく知られている。

 ネットのアクセス情報や時間、購買行動などから、自宅でアクセスしているのか、オフィスでアクセスしているのか、移動中にアクセスしているのかといった情報も手に入る。コンビニ事業がスタートすれば、リアル店舗での購買行動や購買履歴の情報がこれに加わることになる。利用者に特化したオススメ商品を、ネットだけでなくリアル店舗でも展開できるわけだ。

 これまでの小売店は、顧客がどのような人物なのかまでを把握することはできなかった。「このような商品が受けるだろう」という仮説を立ててキャンペーンを打ち、その結果を検証するというPDCAサイクルを回すことで、ようやく顧客の購買頻度を高めたり、客単価を上げることができるだけだった。

 だが店舗側が誰が来店しているのかを知っていれば、こうしたキャンペーンの効率は劇的に向上する。うまくシステムを設計できれば、客単価を大幅に引き上げることも可能となるだろう。もしアマゾンが日本でも同じようなリアル店舗を展開した場合、コンビニ業界は極めて大きな影響を受けることになる。

アマゾンはすでに巨大な流通企業となっている

 日本のコンビニは、大規模小売店舗法(いわゆる大店法)という一種の政治的歪みをきっかけに生まれた業態だが、今となっては日本の市場を知り尽くし、究極的なまでに社会に浸透している。いくらアマゾンのコンビニが画期的といっても、この牙城を崩すのはそう容易なことではない。

 アマゾン・コンビニの売りである、ネットと連動したきめ細かい商品展開を実現するためには、従来の常識を越える緻密な配送システムが必要となる。個別の店舗ごとにカスタマイズした商品配送にはムダが多く、ここがアマゾン・コンビニにとって最大の課題となるだろう。だが、この部分についてもネット通販で培ったノウハウがうまく生かせる可能性がある。

【参考記事】アマゾン、イギリスでドローン配送の試験飛行へ

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮金総書記が北京到着、娘「ジュエ」氏同行 中ロ

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=S&P・ナスダック1%超安

ビジネス

住友商や三井住友系など4社、米航空機リースを1兆円

ビジネス

サントリー会長辞任の新浪氏、3日に予定通り経済同友
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 5
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 6
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 7
    BAT新型加熱式たばこ「glo Hilo」シリーズ全国展開へ…
  • 8
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story