コラム

ロシアリベラル「最後の生き残り」、ボリス・ナジェージュジンに希望はあるか?

2023年12月22日(金)15時45分
ナジェージュジンの公式サイト

ナジェージュジンの公式サイト NADEZHDIN OFFICIAL SITE

<3月の大統領選に立候補する意向だが......。本誌「ISSUES 2024」特集より>

2024年3月、ロシアで大統領選挙が予定されている。現状では、ウラジーミル・プーチン大統領の5選が確実だが、政府も「ロシアは民主主義」だと言えるよう、野党系に立候補を促している、と伝えられる。

そのせいか、モスクワ市議会議員でリベラル系のボリス・ナジェージュジン(ロシア語のできる筆者でも舌をかむ発音だ)が、立候補の意向を明らかにしている。これまで所属政党を気軽に変えてきたが、いずれもリベラル系。過去にはリベラルの巨頭ボリス・ネムツォフ第1副首相(15年暗殺)の補佐官を務めている。


今年60歳。その家系には代々、音楽家が多く、彼自身ギターを抱えて歌う吟遊詩人スタイルで4枚のCDを出している。全国数学オリンピックで2位になったこともあり、コンピューターゲームにも興ずる。テレビ討論番組の常連で、昨年5月には「プーチンが辞めなければ、ロシアは欧州に戻れない。24年の大統領選挙は、プーチン以外なら誰でもいい」と、大胆なことを言っている。

「ロシアのインテリ」は、18世紀初めにピョートル大帝が貴族のひげを剃り落とさせ、上層部の西欧化を図った時に生まれた階層だ。トルストイの『戦争と平和』にあるように、自宅でもフランス語を使い、西欧で年の半分も過ごすような貴族から、チェーホフの戯曲に登場する医師、教師などの貧乏インテリまでさまざま。ただ絶対少数で、大衆の海の中では浮いている「余計者」的存在だ。

大衆から嫌われるリベラル

彼らはソ連の時代も西欧文明と自分を同一視し、西欧の自由と民主主義に憧れた。1960年代のフルシチョフの「雪解け」、85年からのゴルバチョフのペレストロイカ、そしてエリツィンによる無秩序な自由化の時代に、彼らはやっと自分たちの時代が訪れたと思い、そのたびに裏切られてきた。

彼らはもともと絶対少数の存在だし、90年代には極端な自由化に走って経済、社会を混乱の極みに導いた張本人だと思われて、大衆に嫌われている。全てが国営だったロシアでは、今でも大多数が政府、国営企業に雇われているから、反政府主義者は異分子になる。「自由と民主主義は混乱の元」はロシアの公理なのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中、米国とそれぞれ電話首脳会談 国連に書簡も送付

ワールド

中国への「復帰」は台湾人の選択肢でないと行政院長、

ワールド

ブラジル政府予算、郵政事業悪化で打撃 事態さらに悪

ワールド

ロシア、対中石油輸出の拡大協議=ノバク副首相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story