コラム

安倍トランプ蜜月の先にある中東の3つの課題

2017年02月17日(金)11時48分

エルサレムへの米大使館移転は強い批判を呼ぶ

外交・安全保障での最重要課題と言えば日本にとっては中国、北朝鮮であるが、米国にとっては圧倒的に中東である。外交経験のないトランプ大統領であるが、選挙期間中に中東についてははかなり鋭角的な主張をしてきた。

目立ったのは、①エルサレムへの米大使館移転、②イランとの核合意の破棄または見直し、③「イスラム国」との戦い――の3点である。

トランプ大統領は就任前に言ったことを、言葉だけでなく実行していることを考えれば、この3点も今後、米国の新たな中東政策として実施されることになるだろうか。その時、日本は「内政問題だからコメントは差し控えたい」と言って批判せず、国際的には「容認」と受け取られるような対応をとり続けるのだろうか。

エルサレムへの米大使館移転については、トランプ氏は昨年3月の親イスラエル系ユダヤロビー団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」での演説で「我々は米国大使館をユダヤ人の永遠の首都であるエルサレムに移転する」と宣言した。

イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、ユダヤ教、キリスト教、イスラムの3つの宗教の聖地があるエルサレム旧市街を含む東エルサレムを、ヨルダン川西岸、ガザとともに武力で占領した。80年には東エルサレムを併合し、エルサレムを「ユダヤ人の永遠の首都」として宣言した。

国際社会は、東エルサレムの併合やエルサレム首都宣言を認めておらず、米国や日本を含むほとんどの国が大使館をエルサレムではなく、テルアビブに置いている。

トランプ大統領がこの「約束」を実行し、米国大使館をエルサレムに移転させれば、パレスチナだけでなく、イスラム世界からの激しい反発が上がることは避けられない。さらに欧州の国々からも強い批判が出るだろう。もし、日本が「コメントしない」となれば、日本も米国寄りとして、共に批判を受けることは避けられない。

【参考記事】米国がイスラエルの右翼と一体化する日
【参考記事】トランプの「大使館移転」が新たな中東危機を呼ぶ?【展望・後編】

2番目のイランとの核合意の破棄または見直しについては、トランプ氏は選挙期間中、イラン敵視を掲げてきた。90日間の入国禁止の大統領令が対象とした7カ国にはイランも含まれている。

イランを除く6カ国は「イスラム国(IS)」やアルカイダが強い影響力を持つ国々だが、イランについては同国そのものがレバノンのシーア派組織ヒズボラやパレスチナの組織ハマスを支援しているとして「テロ支援国家」に指定している。

しかし、イランとの「核合意」は安保理常任理事国5カ国とドイツによる合意であり、トランプ政権が廃棄や見直しに動けば、国際的な批判が上がるのは避けられない。日本にとってイランは主要な原油輸入元の一つであり、経済への影響も無視できない。

トランプ大統領が本気で「イラン敵視」政策に踏み出すとすれば、国際的に孤立しないためには、日本の支持を取り付けておくことになるだろう。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日鉄によるUSスチールの買収完了、米政府が黄金株保

ワールド

イラン、トランプ氏の降伏要求に反発 中東紛争の出口

ワールド

日産2車種「追加調査の必要性なし」 米NHTSA、

ワールド

中国外相、イスラエルによるイラン攻撃「国際法違反」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 2
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 7
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 8
    電光石火でイラン上空の制空権を奪取! 装備と戦略…
  • 9
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 10
    「音大卒では食べていけない」?......ただし、趣味…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story