コラム

ついに韓国は「中国の負け」に賭けた...中国王朝の変遷に翻弄された歴史で培われた「勝ち馬」を見抜く眼力

2023年07月04日(火)19時24分
1992年の中国・韓国国交正常化

1992年に国交正常化したが、韓国の対中認識は変わりつつある AP/AFLO

<中国経済への依存度の低下もあって韓国の対中感情が変化し、現在では与野党双方が競って中国を批判するという状況が出現している>

「中国が負けることに賭ける人たちは、あとで必ず後悔するだろう」

中国と韓国との間での舌戦が繰り広げられている。発端となったのは、冒頭の駐韓中国大使の挑発的な発言だ。背景に、対米関係を重視する尹錫悦(ユン・ソギョル)政権への中国政府のいら立ちが存在することは明らかである。

注目すべきはそこからの展開だ。露骨な批判を受けた尹政権が「内政干渉だ」と反発したところまでは、同政権のこれまでの外交政策を見れば不思議ではない。

先の中国大使の発言は韓国の最大野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)との夕食会で出たものであり、韓国政府の抗議に対し、中国外務省は「駐韓中国大使と李在明代表の交流に不当に反応して抗議したことに重大な遺憾と不満を表明し、抗議する」と反論した。

慌てたのは、名前を挙げられた李在明だ。中韓の対立が高まるなか、中国に対し妥協的であるとみられることを恐れた彼は、「中国政府のそのような態度はしかるべきものではない」と発言し、自らの姿勢を急いで修正した。結果、与野党双方が競って中国を批判する、という状況が出現した。

背景にあるのは、韓国の対中感情の変化である。例えば2013年、保守派の大統領だった朴槿惠(パク・クネ)が中国へ接近した理由は3つあった。韓国世論の中国への高い親近感、北朝鮮との対話の橋渡しの期待、そして急速に進んでいた中国市場への経済的依存の高まりだ。

「次の覇権国家の見誤り」は打撃

しかし現在、その状況は大きく変化した。朴槿惠政権末期に勃発したTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備をめぐる中国の事実上の経済制裁は、韓国人をして「中国は他国を力でねじ伏せようとする国である」との認識を持たせることになった。北朝鮮との対話においても中国は橋渡しの役割を果たせず、朴槿惠に続いた文在寅(ムン・ジェイン)政権の南北対話で重要な役割を果たしたのは、アメリカであった。

何よりも韓国の中国への経済的依存度は、13年をピークに頭打ちしている。理由はいくつか存在した。1つは中国市場への過度の依存を恐れた韓国企業が対外投資を分散させたこと。結果、00年代の一時期には対外投資の40%近くを占めた中国への直接投資は、今日10%以下にまで低下している。

2つ目は、中国経済の減速である。00年代には年平均10%を超えた中国の経済成長率は、10年代になって低下の傾向を見せるようになり、新型コロナ禍に苦しんだ20年と22年には2%台までに低下した。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、クーパン情報流出で企業の罰則強化を要求

ワールド

豪政府支出、第3四半期経済成長に寄与 3日発表のG

ビジネス

消費者態度指数11月は4カ月連続の改善、物価高予想

ワールド

国連事務総長、通常予算6億ドル弱削減と職員18%減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 8
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 9
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 10
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story