コラム

「嫌な奴」イーロン・マスクがイギリスを救ったかも

2025年02月07日(金)18時58分

イギリスの視点から見ると、マスクの干渉は確かに奇妙だ。昨年夏にイギリスで反移民暴動が起こったときには、「内戦は避けられない」とX(旧ツイッター)に投稿して怒りを買った。明らかに言いすぎだが、暴動があれほど数々の都市に拡大していなければ、イギリス人も笑って聞き流していただろう。

暴動の発端となったのは、アフリカからの移民を両親に持つ17歳の黒人少年がダンス教室で3人の子供を殺害した事件で、これに白人労働者階級の人々は反移民の怒りを爆発させた。

マスクは痛いところを突いてイギリス人をいらだたせたのだ。イギリスは明らかに、自称し続けているような調和のとれた多文化国家ではない、と。

パキスタン系が白人少女を標的にした事件

最近、彼はイギリスの「グルーミング・ギャング」の事件を蒸し返し、当時検察トップだったスターマー英首相が起訴に失敗したことで犯罪に加担したと糾弾して騒ぎを引き起こした。男たちの集団がイギリス各地で千人以上の少女をグルーミング(手なずけ)して性的虐待した大規模な事件だ。

これはスターマーの職責を超えてはるかに広範囲に拡大した問題だったから、スターマーだけを責めるのはフェアでない。当時、多くの関係当局や制度によって立場の弱い少女たちが見捨てられた。それはイギリスがむしろ忘れようとしている一大スキャンダルだった。

まるでマスクの発言が的外れであるかのように、「もう10年も前の話だろう!」と反発する人もいる。ところが今、政府はこの事件の再捜査と子供へのグルーミング対策に着手すると発表している。なぜ今? まさかマスクのおかげで?

イギリスがこのスキャンダルに対処できなかった理由は、お好みの自己認識、つまり「イギリスは移民によって豊かさを増した国であり、唯一問題があるとすればそれは白人による人種差別だ」という姿とはかけ離れていたから。

この事件は、現実との乖離を白日の下にさらした。パキスタン系イスラム教徒の男たちが白人少女たちを標的にし、組織的に性的虐待し、売春斡旋し、脅迫して暴力を振るっていたのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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