コラム

ヘンリー王子、事実誤認だらけの「プライベート切り売り本」に漂う信用の欠如

2023年01月18日(水)18時25分

次に、彼は多くの家庭にとっては些細なけんかや不和は付き物で、「身内の恥をさらすな」が世間の常識だということを理解していないようだ。彼が家族と和解したいと言いながら、確実にその道を閉ざすことを実行しているのは、矛盾しているようにしか見えない。ヘンリーは全てをさらけ出すことでカタルシス効果があるという信念のもとに行動しているようだが、これはむしろイギリスの精神に反するし、どちらかといえばアメリカ的な考え方だ。おそらくそれこそが彼の目指すところ――英王室から脱皮して違う人間になろうとしているのだ。

それから、ヘンリーとメーガンは事実認識が甘い傾向がある。例えば、メーガンは2人があの盛大な結婚式の3日前にプライベートな式を挙げて正式に結婚していたと主張した。でもそれは間違いで、単なる非公式の誓いの儀式だった。彼女はまた、彼らの息子アーチーが王子の称号を与えられなかったのは冷遇であり、彼女の人種のせいではないかと話した(でも実際には、ヘンリーの継承順位から見て王室の基準にのっとった措置だった)。

さらにヘンリーは回顧録の中で、曽祖母エリザベス王太后(エリザベス女王の母)の訃報を寄宿学校にいた時に電話で知らされたと「回想」しているが、記録によれば当時、彼は父と兄と一緒にスイスにスキー旅行に出かけていた。

誰しも間違いは犯すものだが、他人をおとしめるような形で物事を回想する傾向があると、語り手の意図にも話全体の信憑性にも疑いの目が向けられる。例えばメーガンが米司会者オプラ・ウィンフリーに話した衝撃的な暴露の1つに、ある「高位の王族」が、夫妻の子供の誕生前に子供の肌の色はどうなるだろうと言っていたというものがあった。それはあたかも、子供が黒すぎないといいのだが、というギョッとするような願望を意味しているように思える。

この事実が明かされた当時、黒人を含む多くの人々が、生まれてくる子供が両親のどちらからどんな特徴を受け継ぐかと思いを巡らすのはごく普通のことじゃないか、と感じた。今になって、ヘンリーはこの話を蒸し返し、この発言が人種差別的なものとは思っていないと語っている。だが既に、人種差別的発言だとする考え方は世間に広まり、いつまでも尾を引き、英王室に損害を与えてきた。

結局はこの件も、ヘンリーとメーガンが声高に告発したい「不当な扱い」とやらの信憑性に疑問を投げかけることになってしまったのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アジア途上国の成長率予測を上方修正、インドの伸びが

ワールド

独首相が米安保戦略批判、欧州の自立促進呼びかけ

ビジネス

スペースXが来年のIPO計画、250億ドル超調達目

ワールド

米、中国軍のレーダー照射を批判 「日本への関与揺る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story