コラム

レジ袋有料化の効果はイギリスに聞け

2018年11月06日(火)17時15分

レジ袋税の影響で、イングランドでは各スーパーが競い合い、趣向を凝らしたおしゃれで丈夫なエコバッグを売り出している Suzanne Plunkett-REUTERS

<日本では環境省のレジ袋有料化検討に賛否両論だが、一足お先にレジ袋税を導入していたイングランドでは人々の意識改革のみならず意外なビジネスの広がりも>

「新たな税の大成功を国民が歓迎」――などという見出しを目にすることはめったにない。でもイングランドで3年前に導入された、レジ袋1枚に5ペンスかかる税金については、この言い方が当てはまると言ってもいいと思う。

レジ袋の使用は驚きの85%も減った。1回きりで使い捨てられるのがほとんどだったレジ袋は、1年目だけで60億枚も削減された。

この税が発表されたとき、僕は試してみる価値はあると思ったものの、正直どの程度の効果があるのだろうかと疑っていた。

1つには、大手スーパー各社がもう既に、ノー・レジ袋の特典を実施していたこと。たとえばテスコやセインズベリーでは、レジ袋を使わなければポイントカードに追加ポイントを付けていた。ポイントはその店の買い物で使用できる。僕はいつもこれを利用していたけれど、僕みたいな客はごく少数派みたいだった。

一方で、セルフレジを利用し、袋1つで済む量の買い物なのに4~5枚分節約したと言い張って追加ポイントを要求し、このシステムを悪用しようとする人々もいた。どういうわけか、これは窃盗と同じことだとは思われないらしい。

だから僕は、大半の人はエコバッグを持参してまでほんの数ペンスを得しようなんて考えないのだろう、と結論付けた。または、勝手に袋を取るだけ取って、税を避けるためにセルフレジで申告をしない、という人々もいるだろうと考えた。

概してイギリス人は、小さな金額にこだわるのはセコいと考えがちだ。たとえば大多数の人は、5ペンス硬貨を落としたときに拾おうともしない。だから僕は、その同じイギリス人がレジ袋に余計な5ペンスとか10ペンスかかるのを気にするとは思えなかった。

僕は論理的に考え過ぎていたらしい。あるいは、その論理自体が違ったらしい。行動経済学の「ナッジ理論」によれば、たとえわずかなインセンティブやわずかな不利益でも、状況を変え、人の行動を変えさせることができるという。以前はエコバッグを持ってくる「つもりだったのに」つい忘れてしまった、と言い訳ばかりしていた人も、2枚で足りるのに3枚のレジ袋を持ち帰っていたような人も、今では本当に必要な時はレジ袋にきちんとお金を払うようになった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story