コラム

暴かれた極秘プロジェクト......権威主義国にAI監視システムを提供する「死の商人」グーグル

2022年09月22日(木)16時30分

もちろん、これらは氷山の一角であり、グーグルはさまざまな形で権威主義や反体制、反主流派に協力している。

たとえば今回のロシアのウクライナ侵攻において、グーグルはロシア国営メディアへの広告配信を停止したが、その一方で親ロシア反ウクライナの主張を掲載しているサイトに多額の広告費を支払い続けていたことがわかっている(くわしくは拙ブログ)。また、最近では経済制裁の対象となっているロシア企業にユーザー情報へのアクセスを許可していたことが暴露された。

グーグルがファクトチェック団体を支援する一方で、デマや陰謀論サイトを支援していたことは以前の記事にも書いたが、その状況は変わっていない。

対立する両方に協力するグーグルの姿は新しい「死の商人」

グーグルはプロジェクト・ニンバスやプロジェクト・ドラゴンフライのように権威主義国の弾圧に協力する一方で、ファクトチェック団体やジャーナリストの育成にも支援も行っている。極端なたとえかもしれないが、対立する両方に協力し、分断を煽り、そこから利益を得る姿は、対立する陣営の双方に兵器を売りさばく「死の商人」のように見える。現代において情報は兵器でもあり、使い方によっては人や組織に死をもたらす。プロジェクト・ニンバスやプロジェクト・ドラゴンフライは弾圧される市民の側からすれば死をもたらすツールになりかねない。少なくとも言論活動には死をもたらすだろう。対立する双方の危機感を煽り、対立をエスカレートさせ、さらに影響力と売上を増やすのが効率のよいビジネスのやり方なのかもしれない。

これは決してアメリカやイスラエルだけの話ではない。日本でも対立や分断は進んでいるし、以前ご紹介したように警察はSNSの画像を顔認証システムで照合し、民間の監視カメラと連動したリアルタイムの顔認証システムもある。グーグルでないにしても、対立と分断を煽る新しい「死の商人」が近づいてくる余地は充分にある。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

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