コラム

暴かれた極秘プロジェクト......権威主義国にAI監視システムを提供する「死の商人」グーグル

2022年09月22日(木)16時30分

サンフランシスコのGoogleオフィスの外で行われた抗議集会...... REUTERS/Paresh Dave

<「グーグルは正義よりも人種差別を選んだ」......暴露されたイスラエル政府とのプロジェクト・ニンバス、中国とのプロジェクト・ドラゴンフライ>

なぜか日本ではグーグルに関するネガティブな情報があまり報道されない傾向がある(わずかに報道されることもあるが)。2022年7月24日、The Intercept_誌はグーグルのプロジェクト・ニンバス(Nimbus)の隠された事実を暴露した。プロジェクト・ニンバスとは、イスラエル政府からグーグルとアマゾンが受注した12億ドル(約1,700億円)のクラウドコンピューティングの名称である。

以前からイスラエルはパレスチナ人に対する監視システムを構築、運用していたが、それがプロジェクト・ニンバスによってさらに高度になるのではないかという懸念があった中での今回の暴露だ。The Intercept_は独自にプロジェクト・ニンバスの教育ポータルからドキュメントや動画を入手し、隠されていた機能をレポートした。

その資料によればニンバスは顔認識、自動画像分類、追跡、写真やスピーチや文章の感情分析などの機能を提供していた。また、この資料はイスラエルのためだけに作られたものではない形跡があり、他の国の政府でも監視に使われている可能性もわかった。

このシステムにはAutoMLも含まれていた。AutoMLは顧客の保有するデータから学習することができるため、顧客の必要に応じた機能を実現することができる。

記事ではまだ感情分析は信頼性に疑問があるため嘘発見器のように使用された場合の危険性などさまざまな問題があると指摘している。

以前からイスラエル政府は、パレスチナ人を監視するためのシステムとデータを整備していた。そのためのデータ=顔写真は兵士たちがこぞって収集し、多くの写真を集めた部隊には報奨金が出ていたことがわかっている。アメリカ国内であれば、深刻な人権侵害に当たる出来事だ。

グーグルが抗議する社員に行ったこと

2021年10月、グーグルの社員がプロジェクト・ニンバスの内容を明らかにし、契約を取りやめることを求めた嘆願書を公開した。市民団体なども参加した抗議活動になり、嘆願書にはグーグル社内から800人、社外からは37,500人が書名した。

その2週間後、抗議の声をあげた社員は、17日以内にサンパウロに移って働くか、退社するか選択するように迫られ、やむなく退職することとなった。本人のブログに退職に当たっての文章が綴られており、グーグルがイスラエル政府の行っている人権侵害に加担していることに懸念している社員の声を封じ込めようとしていると訴えている。

New York Timesの記事では、グーグルが会社の方針への抗議を抑制するような人事的な扱いを行って様子がレポートされている。これまでもグーグルは同社に批判的な言動を行った社員に対して報復人事と受けとられかねない措置を行ってきたのだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

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